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年越しパーティーⅥ

 夕食後の後片付けを済まし、勇輝たちはロジャーのいるであろう魔術師ギルドを訪ねた。



「なんだ。年末だから友人で食事会でもしていたか。気が利かんで悪かったな」


「いえ、それよりも、すぐに来て欲しいということでしたが……」


「あぁ、そのことだな。杖がほぼ完成した」



 そう告げたロジャーの机の上は、真っ赤な布で覆われていた。恐らくは、桜の新しい杖がその下にあるのだろうが、少しばかり過剰な演出に勇輝は目を丸くする。


 ロジャーがそのようなことするようなタイプには見えなかった。しかし、念願の新素材で作った杖だというのに、ロジャーの表情は真剣そのもの。まだ仕上げは終わっていないとでも言わんばかりの職人の表情だ。



「でも、あの堅い木をどうやって削ったんですか? かなり時間がかかると思っていたんですけど」


「ドワーフの職人たちの手を借りた。純度九十九パーセントのミスリルで作られた加工器具で、な」


「うぇっ!? 純ミスリルの加工器具!? 持ってるドワーフは世界に十人くらいだって聞いたけど」



 マリーが身を乗り出して、赤い布の下にあるだろう物を凝視する。



「そうだな。その内の一人、鍛冶だけでなく彫金も得意とする者が王都にいる。その者には以前から打診をしてあったのでな。金属のように硬い木材と聞いて、思った以上にやる気を出してくれていたわ」


「えっ、じゃあ、私があの木材を持って来ることを知ってたんですか?」



 桜の杖の素材は、シルベスター伯爵領で何種類かの木と相性を確かめて決めた物。いくらなんでもそれを事前に見極めることなどできるはずがない。


 驚く桜を前に、ロジャーは苦笑いして首を横に振る。



「いや、それはただの偶然だ。ただ、可能な限り失敗する確率を下げておきたかった。結果、自然と導き出されるのは、最も手先の器用で信頼ができる職人、というわけだな」



 ドワーフは器用で力もある。職人気質であることも併せて、今回のような新しい物を作ることにはかなり乗り気だったのかもしれない。


 ロジャーは再び目に鋭い光を宿すと、赤い布に手を掛けた。



「さて、嬢ちゃんの相棒をお披露目といこう。準備は良いか?」


「はい、よろしくお願いします」



 みな、桜の後ろに下がり、横に広がって待つ。


 それを確認したロジャーは、一気に赤い布を捲り上げた。



「――これが、私の杖?」



 最初に出て来た桜の声音には戸惑いが感じられた。その理由は、誰が見ても明らかだった。


 愚直に真っ直ぐな杖。その大半は太さが変わることのない棒であり、先端部から左右に翼のような彫り物が突き出ている。



「うむ、ワンド型ではなく、スタッフ型に近いな。あまり若い者は好んで使わないが、威力や籠められる魔力量は段違いだ」


「あー、確かに学園内で大型の杖を持ち歩いてる生徒は少ないよな。持ち運びが大変だし」



 移動時には必ず片手が塞がり、授業の時には杖の置き場所が必要になる。おまけに狭い場所での戦闘では、取り回しがしづらく不利。


 授業でも話題に上がったことがあるが、大型の杖を使うのは基本的に屋外における大規模な戦闘か、儀式などの動くことのない状態での使用を前提にしているという。



「ふむ、それは儂も承知しておる。だからこそ、このタイミングで呼んだのだ」



 ロジャーは桜に杖を手に取るよう促しながら、机の上にポーションらしきものを並べ始めた。



「あれ? すごく軽い。確か、元になった樹木は堅くて重い種類が二つだったはずなのに」


「堅さだけを受け継ぎ、重さは残ったもう一つの木と同じになった、と考えるしかないだろうな。おかげで、普通の金属とぶつけても欠けることのない杖だ。折れる心配もいらんだろう」



 ロジャーはポーションを並べ終えると、部屋の中央に移動し始める。杖を振ると、まだ水の中に浸けられていた木材たちを覆い隠すように一枚岩の床が出現した。


 そこには溝が彫られており、よく見ると魔法陣のような文様を形成している。



「ここからは儂が開発した魔法をその杖に付与しようと思う。その為には少しばかり魔力を消費するのと、時間がかかる。この前の加工準備の様子を見ているに、嬢ちゃんなら大丈夫だろう」



 そう告げたロジャーは再び杖を振って、部屋の奥から大量の壺を呼び寄せた。

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