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年越しパーティーⅤ

 何事も怒らないことを祈りながら、勇輝は桜の持つ手紙のもう一方を見る。


 桜もその視線に気付いたのか、宛名を確認して小さく声を上げた。



「ロジャーさんからの手紙だ。何だろう……?」



 ロジャーは先日、杖の素材加工で会ったばかりだ。わざわざ手紙を出すほどの急ぎの様ならば、その場で言っているはず。



「もしかして、素材の木が割れちゃったとか?」


「いや、あんだけ大きな木材だから多少失敗しても、やり直しはできるはずだ。それとは別に何か必要なことがあったんじゃないかな?」



 嫌な予感が一瞬過ぎるが、不思議とロジャーならば大丈夫だろうという安心感が勇輝にはあった。桜も尊敬するロジャーには全幅の信頼を置いているので、すぐに笑顔に戻る。



「じゃあ、読んで見るね」



 桜は封を開けて、中の手紙を読み始める。


 その横でマリーは衝撃を受けた顔で、勇輝の方に身を乗り出した。



「おい、ロジャーって、あの発明ばっかりしてる魔術師ギルドの偉い人だよな。桜の折れた杖、あの人に作って貰ってるのか?」


「いや、どうだろう。少なくとも、デザインや素材の加工準備はロジャーさんがやっていたけど、どこまでやるかは教えて貰ってないな」


「どうすんだよ。変な杖が出来たら、桜は良くても周囲の奴が変な目で見て来るぞ」


「うーん。まずはできたものを見てからでないと何とも言えないな。ほら、俺のコートだってロジャーさんが作った物だけど、変じゃないし、最高クラスの能力が付与されてるんだぞ?」



 当たり外れが大きいと言われてしまえばそれまでだが、少なくとも杖を作るのに大きな失敗はないだろうというのが勇輝の意見だ。


 もちろん、それは杖作りの詳細を知らない素人の視点からの話ではあるが。


 素材を選び、加工しやすくして、規格通りの形にする。大きく分けると、その三つの工程が思い浮かび、その内、二つは無事に終了している。その為、問題が起こるとすれば、形にする「加工」の部分だろう。



「そういえば、斧を何度振り下ろしても傷が入らないほど堅かったんだよな。何かの拍子に割れるって言うのは、やっぱりあり得るか? 加工の準備もかなり急ピッチだったし……」



 マリーの言葉に再び、不安に襲われ始める勇輝。そんな中、桜がさきほどよりも大きな声を上げる。



「ゆ、勇輝さん、どうしよう」


「何か不具合でも起こったのか? ロジャーさん、かなり気合入れてやってたけど……」


「その、『できたから、今日中に取りに来い』って」



 想定していなかった言葉に、勇輝はもちろん、他のメンバーも固まる。



「今日中にって、どこの杖職人を年末に働かせてるんだい? 僕もロジャーといえば、稀代の錬金術師にして発明家とは聞いたことあるけど、どんだけ無茶苦茶なんだ?」


「まぁ、あの人なら、やる。なんだったら、予算を数倍オーバーしても、採算が合わない値段でうりそう」



 アイリスは、舌鼓を打ちつつ、淡々とロジャーが普通の人はしないことをやるタイプだと宣言する。それはフランも同じ意見だったのか、苦笑いして頷いていた。



「商会ギルドでもロジャーさんの名は通っていますからね。良くも悪くも」



 既存品を上回る良品を格安で売り捌き始めたと思ったら、採算度外視の品を一部の店舗にサンプルをおいて、サンプルモニターを探すなどやりたい放題であるとか。それでも彼らが止めないのは、そのおかげで王都内の金の巡りや生産者のやる気が上昇していて、良い効果があるからだという。



「でも、流石にこんな年末の夜に来るように言うのは、いくら副ギルド長でも非常識なのでは?」


「それがね? 『ちょっとした儀式をして、より素晴らしい杖』を作るのに、使う予定の私が必要なんだって」



 ソフィが眉を顰めると、桜も手紙を彼女に渡して首を傾げる。



「儀式、ですか。そうなるとかなり特殊な杖を作ろうとしているように思えますね。まだ日付が変わるまでには時間がありますし、食べ終えたら行ってみますか?」


「そうなると、みんなと一緒に過ごせなくなるけど……」



 桜が迷っていると、マリーがサクラの背中を叩く。



「何言ってんだよ。あたしたちもついて行くに決まってんだろ? まぁ、時間がかかると途中で退場するのもいるかもしれないけどさ」


「えっと、みんな、それでもいい?」



 桜の問いかけに全員が頷く。すると桜は笑顔で礼を言う。


 なんだかんだで早く杖を手に入れたかったのは桜なのだ。それ故に、友人たちとそのお披露目に立ち会えるのは、彼女にとって感慨深いものがあるのかもしれない。


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