年越しパーティーⅢ
勇輝は豚の角煮を崩しながら、マリーたちの会話を見守る。
人は断った勇輝だったが、落下しても大丈夫なように飛行魔法を覚えるというのは、ありかもしれないと考えてしまう。
(でも、普段から刀と同じかそれ以上の長さの杖や箒を持ち歩くのもな……それなら、まだ――)
勇輝の視線はフェイへと向けられる。
飛行ではなく足場を作って跳躍するというのは、剣士であるフェイが使っているだけあって、刀やガンドを使いながら戦う勇輝にとって相性がいい。
そんな視線に気付いたのか、フェイは珍しく得意気な表情で勇輝を見る。
「そんな顔しても、僕は教えないからな」
「えぇ、何だよ。良いだろう、それくらい」
「ただでさえ、君の成長は著しいんだ。これで僕の得意な技まで覚えられたら――正直、自信を無くす」
かつては勇輝を見下していたフェイとは思えないセリフに、勇輝は目を丸くする。断られたこと自体は悲しいのに、その理由を聞いて嬉しくなってしまう自分がいることに気付く。
「まぁ、時間が合えば、その授業に顔を出すよ。マリーが落ちそうになったら、助けに行かないといけないからね」
「む、フェイ。誰が箒から落ちるだって?」
「ここにいる誰もがその可能性があるよ。それだけ、飛行魔法は難しいんだ。魔法を主軸に戦わない僕ですら知ってることさ」
正論。その一言にマリーは唸るも言い返すことができないでいた。
「まぁまぁ、そんないがみ合ってないで、食べなって。せっかく頑張って作ったんだからさ」
そう言って、勇輝は角煮を口の中に放り込む。
包丁のように前歯が肉を裂き、舌で触れれば崩れていく。同時に染み込んでいた汁がどっと溢れ出て、幸せという信号が全身に発せられた。思わずご飯を書き込みたくなる衝動を抑えて、何度も味を噛み締める。
あまりにも簡単に肉の形が失われてしまうので、噛むこと自体が持ったないと思えてしまうほどだった。
「おいしいですね。最近、和の国からの輸入品が多く出回っていますが、こちらではあまり感じることのない味です」
「お醤油のことかな? たしかにファンメル王国で使われてるのとは、ちょっと違うかもしれないけど、口に合ってよかったー」
飛行魔法の話に夢中になっていたが、料理の味も心配だったようで、桜はほっと胸を撫でおろしていた。そんな彼女も角煮を口の中に放り込み、納得のいく味だったのか、強く頷いた。
「うん。普段と違う物を使ったから、味が少し違うけど、これはこれでおいしいかも。塩気の中に甘みも感じられる!」
「桜の作った茶碗蒸し。その中に、崩れちゃったり、小さかったりした角煮を入れてるんだっけ? 絶対においしいのが確定してるって」
プリンのような黄色味がかった白色。その中に埋まっているだろう角煮を想像する。
マリーの父であるローレンス辺境伯が、晩餐会に勇輝たちを招いた時にデザートと勘違いして出したのも茶碗蒸しだった。その事件を知っている者からすると、思わず笑みが浮かんでしまうメニューだろう。
そして、同時に茶碗蒸しという物があまりにも大人気だったという事実もある。特にじゃんけんで余った茶碗蒸しを獲得するということになった時、フェイが勇輝相手に全力で勝ちに来たこともあるほど気に入っている。
勇輝は茶碗蒸しらしきものが出来上がったと、調理終了間際にフェイが何度も盗み見していたことを知っていた。
「もしかして、フェイ。楽しみで、茶碗蒸しは最後まで取っておくつもりか?」
「べ、別にどれから食べようとも僕の自由だろう? 絶対に誰にも渡さないからな」
「わかってるって、ただ言っただけだよ」
ちょっと焦るフェイが、食い意地の張った小学生みたいで可愛いとさえ思ってしまう勇輝。からかいがあると、マリーのような意地の悪い笑みを浮かべてしまう。
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