年越しパーティーⅡ
マリーの羨ましそうな眼差しにソフィは苦笑しつつ、指を立てて話し出す。
「空を飛ぶ方法はいくつかあるんですよ。まずは風魔法の応用で、箒や杖で飛行する方法。それ以外だと引こうかどうかは怪しいですが、足の裏に風魔法を発動させて足場にして、跳躍することで疑似的に飛行状態にする方法――フェイさんは身体強化に風を纏う限定解除を使っているので、できるんじゃないんですか?」
ソフィの説明に、全員の視線がフェイへと集まる。
確かにフェイは海の上を走り抜けるなど、通常では考えられない動きを見せたことがあった。勇輝を抱えたまま、待ちの屋根から屋根に飛び移ったこともある。
もし、そこから落ちたらと考えると、足が震えそうになるが、空中を蹴ることができるとなれば話は別だ。
「……やれやれ、隠していた技をばらされるとは思っていなかったよ。できるようになったのは日ノ本国に渡る前の話だけどね」
「あ、ごめんなさい」
フェイの困惑した笑みに、ソフィは悪気はなかったようで、慌てて立ち上がってしまっていた。
フェイはそれを宥めて座るように促す。真っ赤な顔をしながら席に着いたソフィ。そんな彼女にフェイは問いかけた。
「それで、三つ目は何かな? 流れから察するに、君の飛行方法のことだと思ったんだけど」
「えっと、そうですね。私の場合は水精霊の時のみ使える方法は、体を水にして単純に浮かせる。今の人間状態の私は、水を薄く張って強度――というより固定ですね。それを動かすことで体を持ち上げている感じです」
「それは……極論を言えば、箒や杖を浮かせる代わりに、水で浮くということだね?」
「端的に言えば、そうですね。箒や杖も、最終的に足の裏に何かしらの力で足場を用意すると聞きますから、本質的には一緒です。結局のところ、魔力制御が上手ければ何とかなります」
ソフィはそう言い切るが、珍しくアイリスが小さく首を横に振っていた。
「それで出来れば、苦労は、しない。ソフィの基準は、多分、水精霊基準」
それを聞いた瞬間、全員が苦笑いする。水の魔力制御はかなり難しい部類に入る。それを事も無げにやってのける水精霊を基準にされては、人間である桜やマリーたちでは、飛行魔法をマスターするのは厳しいと言わざるを得ないだろう。
「逆に言うと、飛行魔法を使える人は、魔力制御に長けた凄腕魔法使いってこと?」
「うん。桜の言う通り、魔力制御ができるということは、それだけ強力な魔法を使ったり、細かい動きができたりする人が、多い。タコの足のように、水を操って、それぞれが一つの生き物みたいに、動かせる」
「あ、アイリスが言うってことは、本当にすごいんだね……」
仮にもアイリスは天才少女と言われている実力者。一目見ただけで水の魔力制御のコツを掴むだけの理解力と基礎力がある。そんな彼女が「簡単にはできない」と認めるのは、桜も無かったのだろう。目を丸くして、驚きを隠せないでいる。
「どちらにしても、黄土な魔力制御が要求されるから、やる時は覚悟を決める、べき」
「か、軽い気持ちでいいかな、なんて思ってたけど、本当に授業をしてもらえることになったらどうしよう……」
「その時は、私も、やる」
難しいが、止める理由にはならないとばかりに、アイリスは手を挙げた。すると、その横でマリーもまっすぐに腕を伸ばす。
「あ、あたしもやるからな。抜け駆けしたら怒るから!」
あまりにも勢いが良かったせいか、持っていたフォークの先に刺さっていたブロッコリーが抜け落ちる。それを慌ててキャッチするマリーに、誰もが苦笑を禁じえなかった。
「大丈夫だって、マリー。行きたい人は私からヴァネッサ先生にお願いしてみるから――というか、最初から、みんなの分もお願いしようと思ってたんだから」
「本当だよな? 嘘じゃないよな?」
よほど、空を飛ぶことにこだわりがあるのか。桜に掴みかかりかねない勢いでマリーは身を乗り出していた。
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