年越しパーティーⅠ
桜の部屋に戻って来た勇輝たち。
真っ先にアイリスがイスへと駆け寄って、飛び乗るように腰掛ける。
「早く、食べよ!」
「はいはい。その為にはちゃんと並べないとね」
桜が苦笑しながら皿を乗せたトレーと共に室内に入る。その後も勇輝やマリーなどがそれぞれの料理を運びこんでいく。
ファンメル王国なので、少しばかり作り方に差異はあるものの、基本的には同じように料理ができたと桜は満足気だ。
鍋で炊いた米、豚の角煮。そして、サラダに桜の作った茶碗蒸し。それぞれがテーブルに所狭しと並べられていく。
「さて、これで大丈夫かな? 年越し蕎麦とは全然かけ離れているけど、みんなで食事をするには十分だよね」
「そうだな。アイリスはいつもの調子だと足りないかもだけど」
マリーがアイリスの頭に手を置くと、頬を膨らませながらアイリスはその手を払いのけた。
「大丈夫。しっかり噛んで食べれば、お腹はいっぱいになる。健康にも良いって、勇輝に教えてもらったから」
アイリスの反論に勇輝は苦笑いを浮かべるしかなかった。
以前、フランの出店でたくさん買っていた姿を見て、勇輝が苦言を呈したのが原因だ。大食いは不治の病の元だと知ったのが、余程恐ろしかったらしい。
あれからまだ一週間程度だが、アイリスは大食いを控え、一口三十噛みを実践しているという。
「あと、いっぱい噛むと、いつもよりもおいしくなる。新しい発見!」
「それは良かった。じゃあ、この料理も今まで以上に美味く感じるぞ」
全員が席に着くと、桜の号令で食事の挨拶をして食べ始めることになった。
「サラダのシャキシャキ感、まだ残っててよかったよ。肉のカリカリもね」
「フェイ、わかってないな。このカリカリのところをあえてドレッシングに浸けて食べるのも美味いぞ」
普段とは違う食べ物に戸惑いつつも、誰もが笑顔で皿から口へと食べ物を運ぶ。
その姿は、正に平和の象徴だと勇輝は思った。
「そういえば、ヴァネッサ先生はどうだった?」
「とっても喜んでたよ。角煮だけが届くと思ってたみたいだから、トレーに定食みたいに乗せて持って行ったら、こんな感じで――」
そう言うと桜は両手を胸の前で叩いて、何度も弾むような動きをする。
よほど手作りの料理を食べられることが嬉しかったのが伝わって来る動きだが、その分だけ、寮の監督が大変なのだという気持ちも増してしまう。
「でも、これで本当に箒に乗る授業を教えてもらえることになったらどうします?」
「私だけだと不安だから、みんなも一緒に受けてみない? 全員で一緒に作った料理だから、ヴァネッサ先生も頷いてくれるとは思うんだけど」
国一番の箒乗り。最速の二つ名。学生時代に免許を取り、当時の飛行魔法のレースの記録は未だに破られていないという。
そんな偉大な人物の授業にマンツーマンでの授業は、桜にとってハードルが高いようだ。
「あたしは厨房でも言ったように、出来るなら受けてみたい。他にもそういう人はいるんじゃないか?」
「ん、私も、興味ある」
アイリスが手を挙げると、次々に手が挙がり始める。その中で最後まで挙げなかったのは勇輝とフェイ、そしてソフィだった。
それを見たマリーは信じられないものを見るような目で三人を見回した。
「マリーちゃん。私は水精霊だった影響もあって、その気になれば浮遊と飛行の魔法は箒無しでもできそうなの。ほら、大妖精がみんなを浮かして私のところにまで飛んできたことあったでしょう?」
「僕は飛行ではなく、跳躍に慣れてしまったからね。それに騎士として使う場面は少ないから、それなら別の鍛錬をした方が良い」
「落下恐怖症だから、飛ばなければ落ちなくて済むし……」
各々が理由を述べると、マリーはソフィの方へと顔をぐるりと回した。その表情から、彼女の気持ちを読み取るのは容易い。それを言葉にするなら「飛べるなんてズルい」と言ったところだろうか。
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