料理開始Ⅱ
自分の店を構えることは、彼女にとってある意味では悲願の一つだろう。
しかし、フランは苦笑いを浮かべて首を横に振った。
「だけど、資金がまだまだ足りないんですよね。借金の担保にできるものも無いので、まずは地道に稼ぐところから、ですね。何かしらの形で運良く特許とかが取れれば話は別ですけど」
以前に勇輝がかき氷を作り、それを商品として登録したことで、夏の間は臨時ボーナスが勇輝とフランの懐に飛び込んで来た。ただ、それだけでは店を持つ金額には到底届かない。
やはり初期投資には、それなりの準備か後ろ盾がいるということになるのだろう。
「じゃあ、来年は頑張ってお金を稼ぐ年だな」
「マリーさん、店を持ったとしても稼ぎ続けなければ意味ないですからね。来年も、ですよ」
「そりゃそうだ。走り続けるのは大変そうだな……」
マリーにツッコミを入れたフランは、先程までの表情とはうって変わって爽やかな笑顔を浮かべている。もしかすると、そのことを話すまで彼女の中でも葛藤があったのかもしれない。
「そういえば、ソフィには何度か合えたけど、フェイには全然会えなかったな。マリーの護衛騎士なのに、近くにいないし……」
勇輝がフェイに話を振ると、ため息交じりにフェイは肩を竦める。
「それは僕も同感だよ。ただ、おかげで結構鍛えられた部分はある。そういう意味では、マリーを守る力が増したということで許してもらいたいね」
「へー、じゃあ、今度、模擬戦の一つか二つやらないか?」
「いいね。お互い、まだ知らない手の内があるだろうし、以前よりも楽しめそうだね」
互いに笑みを浮かべると、唐突に二人の間に手が差し込まれた。それも二人分。
「はーい。今日はみんなで仲良くお話をするのが目的だぞー」
「そういうことなので、戦闘や依頼のお話はまた今度で」
マリーと桜が仲良く、話を断ち切る。しかし、勇輝としてはフェイと話す内容になると、ほとんどが戦闘に関することばかりだ。
改めて、それ以外の話をしようと思っても話題が出てこない。困り果てた勇輝はフェイに視線を送ると、青い瞳がまるで鏡のように自分を見返して来た。
「前々から思ってたけど、二人とも結構な鍛錬マニアだよな。自分が強くなることに快感を覚えてるって言うか」
「否定はしないよ。それでできることが広がるし、そもそも僕は伯爵に仕える騎士だからね。まず第一に強さが求められるのは、言わずもがなだ。そういう意味では、彼の方がある意味では異常かもね。この短期間で、強くなり過ぎだよ」
フェイの言葉に勇輝は一瞬、ムッとしかけるが、全く以てその通りだと冷静になる。
いくら先祖が化け物を殺す一族だったとしても、現代で平和に生きていた勇輝が、命懸けで戦うことに意味を見出すというのは無理がある。その為、最も今の状況に合う言葉を当てはめるとすれば――
「――向上心が強い、とだけ言っておくよ」
そもそも巻き込まれる事件の頻度が多すぎた。勇輝の場合は戦って負ければ、即ち死あるのみという状況に近かった。実際に、何度命を落とし掛けたかわからない。
どこか遠い目をする勇輝に何を思ったのか、フェイは無言で見つめた後、呟くように言った。
「……明日の朝は、流石に素振りはしないからな」
「そりゃ、どうも」
流石に年始の朝に素振りをするのは精神的に来るものがある。ここ最近、桜と一緒に起きたり、依頼に出ていたりで素振りはあまりできていなかったが、それでもこの時期くらいはしないでいたいという気持ちが上回った。
「お話も良いけど、せっかく大勢集まったんだから、遊ぶ!」
しばらく黙っていたアイリスが背後から何かを取り出したかと思うと、カードの束をテーブルの上に置いた。それは勇輝もよく知るアイテム「トランプ」だった。
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