料理開始Ⅰ
翌日、桜の部屋にはマリーとアイリスを始め、ファンメル王国で助け合った仲間が大集合していた。
「とりあえず、テーブルとイスは借りて来れた。これでみんな座れるだろ」
マリーが肩をぐるぐる回して一息つく。その横では彼女の護衛――最近は王都の騎士団で鍛錬を積んでいる――としての役目を買われた辺境伯最年少騎士のフェイが、息も乱さずに立っていた。
金髪の髪をわずかに揺らし、その毛先の下から覗く碧眼はまっすぐにマリーを見ていた。
「自分が運ぶと言ったのに、あまり無理はしないでほしいんだけど」
「魔法ばっかりやってたら体がなまっちまうからな。どっかの誰かさんに庇われてばかりも困るし、ちょうどいいんだよ。それにアイリスだって、イスを一緒に運んでくれたからな。あたしに言うんなら、アイリスにだって言わなきゃダメなんじゃないか?」
マリーが親指でアイリスを示すと、彼女は両手を上げて何度も跳ねた。
「私、頑張った」
「ぐっ……。マリー、本当に君は僕を困らせるのが得意だね」
流石にここまで誇らしげにしているアイリスに注意をする気にはなれないのだろう。批難がましい目をマリーへと向けるが、当の本人はどこ吹く風だ。
「悪いね。フェイだけじゃなくて、誰にでも迷惑をかけるのが得意なんだ」
「だから、いつも変なところで痛い目を見るんでしょう。ほら、みんなの目を見てください」
フェイに言われてマリーが見る先には、勇輝と桜、フランにソフィといった面々が苦笑いして立っていた。
「まぁ、それで救われた命もあるからさ。フェイもそこまでにしてやりなよ」
「勇輝。そうやって甘やかすと増長するだけだ。いい加減、年齢に合った行動をしてもらわないと、伯爵夫妻もお困りになる」
その両親がそもそも自由奔放な人たちなので、勇輝としては何とも言葉を返しづらい。多分、二人とも笑い飛ばして終わりなのでは、と。
それをwかってやっているのかは不明だが、マリーは腕を組んだまま不敵な笑みを浮かべるだけだ。
「立ち話も何ですし、せっかく座れる場所が準備できたんですから座りませんか?」
そんな中で手を叩いて、着席を促すソフィ。まるで幼稚園の先生のように場を仕切る幼女だが、全くもって違和感がないところが恐ろしい。腰まで伸びた銀髪を今日は後ろで結びオシャレしている彼女だが、一時期は人ではなく水妖精になっていた。その為、水妖精の姿を先に知っていた者からすると、どこか違和感がまだ拭えないでいた。
「そうですね。せっかく、こうやって集まれたんですから、今までの近況とかもゆっくりお話ししましょう」
その隣にいたフランも大きく頷く。彼女はソフィとは逆で人から吸血鬼の真祖として覚醒してしまった少女だ。太陽のように輝く美しい金髪は、ある意味では日光を克服している彼女に相応しい色かもしれない。
人間の血を吸うということから忌避されるかもしれないが、胸にぶら下げたルビーの魔力で人を襲う必要はない。それでも、知らない人がその正体と共に彼女の瞳を見たら、百人が百人こう思うだろう。
――血のように赤い瞳だ、と。
尤も、本人はかつての家族が作り上げた商会を復興したいということで、全力を尽くしているらしい。
その話は何度か勇輝も聞いていたので、席に座るなり、真っ先に彼女の商会ギルドでの詳細を訪ねてみることにした。
「私ですか? 順風満帆とは言い辛いですが、最低限の信用度は勝ち取ることができました。特に精霊の休息日にやった出店システムは、かなり評判が良かったので、ギルド長直々にお褒めの言葉と金一封をいただきまして……」
「え、それって凄いことなんじゃ? 商会ギルドに興味が無かったあたしでも聞いたことがあるけど、ギルドランクが上がるんだろ?」
「はい。ギルド長からの表彰は、無条件に商会のギルドランクをCまで引き上げられることを意味します。ここからは、正式に自分の店を構えることができるということです」
Dランク以下は修業期間。そういう意味では、他のギルドに比べてランクが上がりにくいのが特徴だ。
商売は信用第一。商会ギルド自体もそれは変わらない。万が一、変な店が出て、客に迷惑を掛けたら商会ギルドの責任にもなり得るからだ。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




