年越し準備Ⅲ
勇輝と桜に加えてマリーとアイリス。それにフェイとフラン、ソフィの七人という大所帯だ。
残念ながら、クレアは別の友人たちと過ごす予定らしく、参加は見送りになってしまった。
「ソフィは本当に大丈夫なのか? だって、ルーカス学園長の孫娘ってことだから、流石に無理なんじゃ?」
「うん、一緒に食事をしたら、先生のところに戻るって。だから、夜遅くまで一緒にいられるのは六人だね」
最近まで、人間ではなく水精霊になっていたこともあり、入院して検査を続けていたのだ。年末年始とはいえ、魔術師ギルドからすれば何が起こるかわからない存在であり、貴重な例でもあるソフィ。尤も、学園長自信が魔術師ギルドの長を兼任していることもあって、多少は融通が利くのかもしれない。
「マリーは今の内に私の部屋にテーブルとイスを運び込む準備をするって言ってた」
多分、談話室の物を借りる申請かも、と桜は顎に手を当てる。
どうやら、明日の夜はかなり騒がしい夜になりそうだ。少なくとも、マリーとアイリスがいる時点で静かな集まりは期待できない。
「他に準備しておく物ってあるかな?」
「ボードゲームとかカードゲームなら、談話室の物があるから、それも借りれるかも。申請はいらないかもしれないけど、マリーに伝えてみる」
桜はそう言うやいなや、もう一度、精霊石で思念を送り始めた。
その間に勇輝は他に何か良い案はないかと考える。
(元の世界にいた時は年末年始にやっていたことなんて、家族でトランプを使って遊ぶくらいだからな。何かあるかと言われても……難しいか)
特段、何か浮かぶこともなく、唸り声を上げるしかできない。
そうこうしている内に、桜は思念での会話を終えたようで、勇輝の顔を不思議そうに見上げていた。
「どうしたの、そんなに唸って」
「他に何か用意できることがないかを考えてたんだ。でも、なかなか思い浮かばなくて」
「いいじゃない。みんなで夕食を楽しく食べて、おしゃべりする。こんなにゆっくりできるのなんて久しぶりなんだから」
それもそうか、と勇輝は頷く。
よくよく考えれば、ほぼ毎日と言っていいほど、何かしらの事件に巻き込まれていたような生活を送っていた。今でこそ、街に出て食事を楽しめる余裕があるが、次の瞬間には何か事件が起こるのではないのかと不安が過ぎる。しかも、それが積み重なって、どんどん膨れ上がっている気がした。普通に歩いているように見えて、路地が視界に入ると、何か潜んでいないかと思わず魔眼を向けてしまう程に。
『化け物を狩る者としては満点だ。女連れとしては及第点かどうか怪しいところだな』
(悪かったな。桜に集中できていなくて)
思念で文句を返すと、心刀は愉快そうに笑い声をあげる。そうとは言え、勇輝は文句を言いながらも、その実、心刀の意見には全く以て同意だった。
心刀を手に入れてから一定期間を経た後、夢の中ではあらゆる見知った存在と戦闘を繰り広げていた。
――一度でも戦ったことがある相手を夢や幻で再現して鍛錬させる。
それが心刀共通の能力だ。その大本は能力からも察することができるように、呪術の領域からもたらされたもの。その目的は、いかにして心刀の持ち主を強く育てるか。その一点に絞られていると勇輝は感じていた。
事実、王都の中であっても頭の片隅で常に警戒する自分がいる。下手をすると、寝ている時ですら、意識が覚醒しているような気すらある。夢の背景に薄目を開けて見える光景が映っていた記憶がおぼろげながらにあった。
(ま、それでも限界はあるからな。今は少しだけでも緊張をほぐしておかないと、また変なことになりそうだ)
常に気を張り続ければ、それが当たり前になる代わりにどこかに弊害が出かねない。何事もほどほどが一番だろう。
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