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製作開始Ⅳ

 桜が普段纏っている光は赤と白が混ざり合ったもの。見方によっては彼女の名前のように桜の色のようにも見える。


 それがロープを通して、枝が浮かばないようにした網へと流れ、その周囲の水へと魔力が広がって行く。やがてそれらは青い光を強く放つようになり、緑色の光を纏う枝を少しずつ侵食し始めた。



(水が時々銀色に光るのは……岩塩か? まぁ、ミネラルが含まれてるって言うから、わずかな金属系の物質が放ってるのかもな)



 桜が集中力を研ぎらせないように、黙々と水をかき混ぜ続ける。


 やがて塩がかなり溶けてくる頃になると、ロジャーが再び部屋へと戻って来た。



「ほう、ちょうど、塩が溶けきるくらいか。計算通りだな」



 自画自賛といった様子でロジャーは頷きながら、容器の周囲を歩き始めた。


 魔力を水の中に入れない為だろう。ロジャーは観察するに留めて、何かを入れたり、杖を振るったりする様子はない。



「水全体に魔力が行き渡ったら、少しずつ枝に染み込ませる工程に入る。若造、かき混ぜるのはそこまでにしておけ。嬢ちゃんの操作の邪魔になるからな」


「わかりました。他に出来ることはありますか?」


「そうだな……。ポーションはいつでも渡してやれるようにしてやれ。そこの机にある分はいくつ使ってくれても構わん」



 ロジャーが示した机には中級ポーションが少なくとも十本以上は置かれていた。


 低級のポーションは幾らでも入手する方法があるが、中級はそれなりの金額を払う必要がある。つまり、気軽に言う程、安くはない物をロジャーは提供していることになる。



「あの、製作費用とか……」


「魔法、錬金術の発展には確かに金が必要だ。だが、この年になると金は余るが、時間が足りないという現象が起きるのだ。儂はそれを金で解決しておるだけよ」



 そう告げると、ロジャーは小さな机に座り、羽ペンで羊皮紙に何かを書き始める。



「まだ、杖の形に納得がいってなくてな。水の流れが止まったら呼べ。それまでは、設計図をこちらで進めておく」



 そう言うやいなや、物凄い速度でかき始める。既にある程度書いていた物らしく、遠目から見ていると杖の細長い部分を表す図と何かの理論を書き連ねたメモ的な部分に分かれているようだ。


 勇輝は棒を水の中に突っ込んだまま固定し、流れにブレーキを掛ける。手の内にかかる力が少しずつ弱まるが、容器が大きいことと水の量が多いこともあってか、なかなか収まらない。


 数十秒して渦から波になった水を見下ろし、勇輝はロジャーへと声を掛けた。



「――そうか。嬢ちゃん、その網の部分から枝に向かって水を送り出すようにしてみろ。できるなら、枝を包み込むイメージでな。後は勝手に水が枝に染み込んでいく感覚を後押ししてやればいい」


「が、頑張ってみます」



 桜が緊張した面持ちで頷く。


 土属性の魔法を得意とする桜からすれば、形がすぐに変形してしまう他の属性の制御は難しいだろう。火を灯し続ける魔法は比較的楽な部類だが、水と風は難易度が高い。


 多くの発明をしているロジャーを尊敬する桜のことを考えると、彼の目の前で失敗しないようにと、いつも以上に肩に力が入っているように見えた。



(でも、結構、枝に向かって青い光が殺到しているし、上手くいってそうだな。後は、これが中まで染みこんだら、中の水ごと引っ張り出す工程か。いったい、どれくらい時間がかかるんだろう……)



 無理にやって枝が割れたり、反ったりしたら良くないだろうことは素人の勇輝でも簡単に予想がつく。


 一方で、常に高品質な作品を求めているイメージがあるロジャーが、桜に任せるということは、それほど失敗の少ない作業なのかもしれないという考えもあった。



『あの爺さんのことだ。少しでも使い手に馴染む確率が高いのならば、多少のリスクも辞さないんだろうよ』


(確かに……。俺たちをドラゴンのいた所に黙って送り込むくらいだからな)



 勇輝は王都からさほど離れていない天然の洞窟ダンジョンに潜む老齢のドラゴンを思い出した。

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