製作開始Ⅱ
一つ一つの枝を触りながら、拡大鏡で観察するロジャー。
あまりにも真剣なせいか。眉間に皺が寄り、輝くという言葉すら霞んで見えるほどにギラついた眼光が一際目立つ。
「ふむ、確か連絡にあった樹木の配合は『エボニー』、『ローズウッド』、『プリンセスツリー』の三つだったな。硬度は抜群で処理をすれば刃物相手でも傷はつかないだろう。しかも、本来ならば非常に重いはずの品種だが、プリンセスツリーの軽さを引き継いだのか、重さを感じさせないな」
枝を持ったロジャーが腕を振ると、空気を裂く音が部屋に木霊する。
「おまけに、魔力の通りは非常に良さそうだ。断面を見ても、木目に乱れがないからな。貴重な樹木だから、新しい魔法の発現にも期待できる」
「え、素材で新しい魔法が増えることってあるんですか?」
桜が問いかけると、口の端を持ち上げてロジャーは頷いた。
「あぁ、その素材が持つ固有の能力というものがある。以前、『ルビーは溜め込んだ魔力を火属性に変える』と教えたはずだが、それと似たようなものだ。例えば、プリンセスツリーは日ノ本国の言葉では『桐』と呼ばれていたはずだな。アレは、そちらの神事の道具に使われていると聞いたことがある。その繋がりからすると光や水関係で、何か起こりそうだと推測できるな」
日ノ本国の祀る神は龍神。聖なるもの故に「光」、水を操るもの故に「水」の属性を持つという推測から、ロジャーはそれと結び付けて考えたようだ。
「小さくて、逆立っているのが数本あるから、それで実験してみるか。水抜きと加工はすぐにできるから、早ければ二日で試作型を作れるな」
「木を乾燥させるのって、すごい時間がかかるんじゃなかったっけ……?」
日ノ本国で一時期、木を切り倒す仕事をしていたので、勇輝はロジャーの呟きに首を傾げる。
個体差もあるので何とも言えないが、効いた話によれば短くて数ヶ月、長ければ数年はかかるという。
「そこは知識と魔法の応用というもので何とかする。水中乾燥という方法は知っておるか?」
「いえ、あまり……」
「簡単に言えば、水の中に沈めて樹木の中の水分を均一にしたり、遮光したりすることで反りや割れを防ぐやり方だな。そこに水の魔力制御をしてやることで、木の中から簡単に水分を引き抜くことができる。――できるようになるまでには、相当苦労するがな」
自らの魔力を流し込んだ水を木の中に浸透させる。そして、その水と木の中の水が触れることで、木の中にある水も操作できるようになる。後は、それをゆっくりと外に引き抜けばいいという。
想像だにしない方法――ともすれば強引すぎると思わないでもないが――で、勇輝も桜も口が開きっぱなしだ。
「とりあえず、そろそろ最後の枝だな。ほれ、さっさと出さんか」
ロジャーが急かすので、勇輝は何とか平常心を保ちつつ枝を取り出す。見た目とは裏腹に床と衝突する音は、かなり軽い。
巨大な枝を見てロジャーは目を大きくして、それを撫でる。
「ほほう。予想はしていたが随分と立派なところを持って来たな。これが十数メートル分とは恐れ入った。シルベスターの奴め、いい仕事をしよる。当然、これを切った若造の手柄でもあるな」
ロジャーは枝を叩くと立ち上がって、桜を見る。
突然、向けられた視線に桜が体を強張らせたのが、勇輝にも伝わって来た。
「さて、こちらの仕事は『理論と設計』、『乾燥』までだったんだが、面白いことを思いついた。嬢ちゃん、この枝の乾燥を自分でやってみんか?」
「私が、ですか?」
「あぁ、コツはいるが、魔力を他人に分け与えるだけの魔力制御ができることは聞いている。それなら、すぐにできるようになるだろうな。自分の杖が欲しいんだろう? それなら、作成過程から関わっておいた方が、魔力の通りも良くなると思うんだが――?」
挑戦的な口調と視線で桜に問いかけるロジャー。すると、桜は逡巡した後に、顔を縦に振った。
「お邪魔でないのならば、ぜひ!」
「そうこなくっちゃ。人生やれることには手を出してみるのが一番だ。そうと決まれば若造、今から指定する分だけしまい直して、魔術師ギルドの工房に行くぞ」
有無を言わせぬ強い口調に、いつもなら巻き込まれたような感じで肩を落としていただろう。しかし、今の勇輝は桜がやる気に満ち溢れているためか、同じ位に乗り気であった。
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