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空中偵察Ⅴ

 勇輝が戻って来た後、クレアと桜は話を聞いて表情を歪めた。



「――つまり、それって、伯爵領を襲わせる魔物を準備していたってことだね。もしかして、結構ヤバい状態?」


「ずっと宮廷魔術師の地位にいることで恨まれる可能性はあるかもしれないけど、だからって、そんな方法をとるかな? だって、新種の魔物を生み出すって、普通の人にはできないことだよ?」



 黒い塊を意図的に造りだし、埋めた者がいる。


 少なくとも、勇輝や伯爵夫人たちは考えていた。しかも、これ見よがしに別々の魔物を融合させたような姿からすると、シルベスター家に伝わる魔法に対する当てつけにも見える。



「この件に関してはシルベスター伯爵に連絡を入れたらしい。もしかすると、伯爵夫人が知らないだけで伯爵が知っている樹木の廃棄場所もあるかもしれないからね」



 ここ十年で廃棄した新種の樹木。それらを全く別の形で再利用しているとは、伯爵も流石に思っていないだろう。


 ただ、標的が伯爵の街に向けられていることと人為的な可能性が高いことを考えれば、伯爵も何かしらのヒントを掴むことができるはずだ。



「しかし、不思議ですね。廃棄したのはかなり前で、しかも知っているのは極一部の人のみ。その場所を正確に突き止めるなんて、普通はできないと思うのですが……」



 メリッサがクレアへと疑問を呈する。


 新種の樹木は、今でこそ街の人々の手によって育てられている物も多い。しかし、伯爵夫人の言う廃棄場所は、当時の伯爵たちが極秘で進めていたプロジェクト。それを知ることができるのは内部の人間か、或いは――



「相伝の魔法だけで宮廷魔術師をやっていけるほど、その地位は簡単じゃない。あたしの母さんですら、宮廷魔術師時代は大変だったっていうくらいだからね。内部から外部への情報流出は基本的にないと見た方が良い。逆に言えば、相手はそんな情報を盗み出せる力の持ち主ってこと」


「そ、そんな人を相手にして、大丈夫なんですか? ここには伯爵夫人だけしか……」


「その辺は大丈夫じゃない? だって、あたしたちがいなくても最終的には対応できそうな魔物でしか攻撃して来なかった。あの騒ぎに乗じて、ここに侵入してくる輩もいなかったみたいだし」



 クレアの視線がメリッサへと注がれる。


 対して、メリッサは言葉を発することなく笑顔で応えるのみだ。



(そういや、メリッサさんは暗器使いだったよな。つまり、暗殺者とかそういう類の人種を専門に対応する人か)



 彼女が城に残った理由が暗に示され、納得した勇輝。逆に言うと、その時点から「何かある」と推測して動いていたクレアには、尊敬の念を抱くことしかできない。


 赤いポニーテールを揺らして振り返ったクレアが、ニヤリと笑みを浮かべる。



「どうした? あたしの凄さに思わず声も出ないか?」


「あぁ。正直、どこから警戒していたのか、知りたいくらいだ」



 両手を上げて勇輝が降参の意を示すと、クレアは声を上げて大笑いする。



「本当に素直だね。そういうとこ、嫌いじゃない。ちなみに勇輝はどこからだと思う?」


「依頼の話を聞いた時から?」


「うーん、それでわかれば苦労はしないよ。実際は城の中に入った時から、かな」



 クレアは笑みを潜め、真剣なまなざしを勇輝に向ける。



「伯爵夫人が出迎えてくれた時、すごい数の使用人が並んでた。母さん相手ならともかく、あたしたち相手にここまでするとは考えられない。お茶会に関しても一緒。普通の貴族は使用人と席を共にすることはあり得ない。――まぁ、あの人なら普段からそうしている可能性もゼロじゃないと思うけどね」



 クレアはテーブルにある紅茶を指し示す。



「暗殺を警戒している、って雰囲気を感じ取ったの。出迎えの人の多さは歓迎ではなく護衛。一緒に食事をとるのは毒を入れられていた時の為の保険ってところね。自分の使用人には全幅の信頼を置いていないとできないことだろうけど」



 さらっと紡がれた言葉に勇輝も桜も言葉を失う。


 まさか、一緒に笑顔で食事をしていた伯爵夫人が、そんな危機の真っただ中にいるとは思いもしなかった。

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