迷宮Ⅵ
ユーキたちがいた所に戻れるならば、五階層分だけで済む。
しかし、ケヴィンが来た所へ戻れば、彼の所属していたパーティのリーダーが倒れた場所に行きつくことになる。ユーキは救助ができる可能性を指摘したが、ケヴィンは否定するだけだった。
「多分、もう手遅れだと思う」
「戦っていた敵が追いかけて来ていないみたいだが?」
「何故かアイツらは水晶を使わないんだ」
複数形で応えたケヴィンにユーキは違和感を覚えた。リーダーであるアンドレは、「追いかけてきた敵からケヴィンを逃がすために一騎討ちに臨んだ」と聞いている。ケヴィンにはまだ話していないことがあるようだが、ユーキはあえて問い詰めることはしなかった。
「それじゃあ、ここを離れよう。万が一ということも有るかもしれないから、まずは話し合った通り、上を目指そう」
「りょーかーい」
アイリスがいつもの声で杖を抜くと、サクラやマリーも続いて杖を引き抜く。若干、後衛が厚いパーティではあるが、何とかなるだろうとユーキは楽観視していた。
扉を開けると狭い洞窟の通路に出た。流石に横並びではいけないのでフェイを先頭、ユーキを最後尾にしてどちらから襲われてもいいような隊列を組み直す。中には前方をマリーとアイリス、後方をサクラにして中央に回復の要であるケヴィンを配置した。
「もしもの時は頼りにしてるよ」
「任せて。回復魔法だけは得意なんだ。あ、もちろん風魔法の援護もするけどね」
慌てて言い直すケヴィンに笑っていると、早速前から声がかかる。
「ゴブリンだ。以前見たゴブリンと大差ないけど、数が多い!」
「よし、あたしの魔法で吹き飛ばしてやるから時間稼いでくれ」
「僕ごと吹き飛ばさないでくれよ」
ユーキが前方を覗くとゴブリンが棍棒を掲げて七体ほど押し寄せてきていた。細い道の利点は囲まれないことだが、武器の扱いが上手くないと時間と体力を浪費することになる。そういう意味ではマリーの援護はベストな選択だろう。
そして、こういう場所のデメリットは挟み撃ちに会うことである。ユーキが振り返ると、同じようにゴブリンが後ろからも数体走って来ているのが確認できた。
「後ろからも来てる。サクラ、ケヴィン、前は三人に任せてこちらの援護を!」
「ユーキさん無理しないでね」
「あぁ、大丈夫、腕の調子も戻ってきたし、問題ない」
右手を握ったり開いたりして調子を確かめるが、連射した反動の痛みは既に消えていた。
ケヴィンがいることもあり、ユーキはガンドを控えて火球を放つことにする。ゴブリンがこちらに来るまで、あと数秒。初級の呪文なら十分間に合う。
「『燃え上がり、爆ぜよ。汝、何者も寄せ付けぬ一条の閃光なり』」
急速に魔力が収束し、ゴブリンに向けて紅蓮の閃光となって突き刺さる。ユーキの周りに存在する見えない「円の結界」が起こす副次作用で魔法の威力が引き上げられ、生き残ったゴブリンは僅かに二体だった。
「え、今の威力は……」
「あ、あはは……」
遅れて巻き起こった爆風がケヴィンの頬を撫でると構えていたメイスが腕と一緒にだらりと下がる。サクラもケヴィンの心情を察してか言葉が出ないようだ。
奇襲をかけたゴブリンは相手が悪いと察したのか、残った二体が叫びながら後ろへと引き返していく。その間に前方のゴブリンたちもフェイが押し返した隙に、マリーとアイリスが火球を連続で放つことで撃退に成功したようだった。
「ふいー、ゴブリン如き、マリー様の手にかかればこんなもんよっと」
「マリー、魔法を放つ前に一言くらい言ってくれないかな」
「いやー、フェイなら避けてくれるかなーって」
「信頼してくれるのは良いけど、それとこれとは別問題だっ!」
額に青筋でも浮かべていそうな笑顔でマリーへとフェイは詰め寄っていた。その様子をケヴィンは口を開けて見つめたあと、ユーキたちへと呟いた。
「君たち、ほんとにダンジョン五層までしか来たことないの?」
「えーと、はい。六層以降には挑戦したことがなくて……」
「高火力魔法使い兼前衛が一人。技量の高い剣士が一人。魔法使い三人。偏りはあるけど、殲滅力なら十五階層ボスも突破できそうだ……」
ケヴィンは一人でパーティを分析すると嬉しそうに頷いた。どうやら、ダンジョン脱出の希望が感じられて、安堵しているようである。
マリーとフェイの言い合いが終わると一行はすぐに前へと歩み始める。立ちはだかるゴブリンなど敵ではなく、この先続く二層目も簡単に突破できる――――かに思われた。
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