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空中偵察Ⅱ

 勇輝は顔を何度か左右に振って、眼下に広がる伯爵領を見つめる。



「昨晩、襲撃があった方向に向かえばいいのよね?」


「はい。そちらから魔物が攻め込んで来たと考えるのが、一番納得できるかな、と。それに昨夜の戦いで見逃していたことにも気付けるかもしれません」



 伯爵夫人の疑問に勇輝は頷く。


 上空に上がった時に四方を見てみたが、昨晩見たような光が見えるのは一方向のみ。その多くは未だ片付けが終わっていない魔物の死骸が原因であったり、まだ燃えくすぶっている草であったりする。ただ、それだけでは片付けられない光が、勇輝の魔眼には見え始めていた。



「俺たちが剪定した樹木がある林の向こうには、何かありますか?」


「いえ、そちらには今は何も残っていないはずです」


「今は、ということは、かつては何かがあったということですか?」


「ええ、そうね。大分前に、今の新種の樹木を始めて作った場所があるのだけれど、あまり育たなくてね。枯れてしまったのよ」



 伯爵夫人は肩を落とすと共に大きく息を吐く。


 当時はどんなことが起こるかわからない実験的な試みだったので、街からも離れた場所に創ったという。



「因みに、そこは今どうなってます?」


「特に何もないわね。何かあってはいけないから全部燃やしてしまったから」



 燃やして灰になれば新種の樹木だろうが、ただの炭素の塊。そこから何か情報を得ることなどできるはずがない。そのような考えであったであろうことは、勇輝にも想像がついた。だからこそ、何か見落としていることがあるのではないかという気持ちも強くなる。



(灰を栄養にして育った植物が何か異変を起こしたとか、それが土に混ざって地下で何かの核になったとか。魔法の理論には詳しくないけど、何かのきっかけになっている可能性があるよな)



 事実、勇輝が眼を細めた先には、緑の合間に赤や黒の光がかすかに煌めいている。



(ちっ、また黒と赤か。あの色が見える時は、いつもよくないことが起きる。せめて、炎を吐くから赤色とか、そういう単純な理由ならマシなんだけど)



 少しずつ近付いていくと、より光が強くなっていく。勇輝は一度、魔眼を閉じて肉眼で確認を行う。すると、そこは何もない平原だった。


 木がまばらに生えているくらいで、あとは膝にも届かない草ばかり。冬ということもあり、動物の姿もあまり見当たらない。



「この辺りが、さっき言った場所ね。何か見つかった?」


「少なくとも、ここが怪しく思える程度には変な物が見えますね。説明するのは難しいですけど」



 ただ今までの経験上怪しいと思うだけで、明確に危険な物が見えているわけではない。このまま、伯爵夫人たちを箒で飛行させたままにするのも申し訳ない。何とかして他に怪しいところはないかと、再び魔眼を開いてみる。


 地表に見当たらないならば地下だろうか、と勇輝は何となく考えた。ローレンス領でも地下から何かが地表にまで上昇し、到達した瞬間に魔物に変わったところを目撃している。桜には無理だと返事をしていたが、やれるだけやってみようと思った次第だ。



「なっ……!?」



 焦点を地面の先に合わせる。そんな感覚で見ていると、四足歩行型の獣の姿をした光が数十匹単位で埋まっている。大きさはまだ小さく、小型犬から中型犬くらいだ。しかも、頭が二つある。



(全力のガンドなら一撃で吹き飛ばせるかどうかくらいか。でも、こんなのがあるってことは、狼頭のゴブリンもどこかに埋まっている?)



 慌てて周囲に目を凝らすが、それらしき光は見当たらない。ひとまず、発見したものを伯爵夫人へと伝えると、メイドたちが騒めき出した。


 まさか、新種の樹木を廃棄した場所で新種の魔物らしき姿を見つけるとは思っていなかったらしい。そして、同時にそれは新種の魔物の出現の原因が伯爵家にある可能性が高まったことへの動揺でもあったのだろう。明らかに目が泳いでいる。その行きつく先は当然と言うべきか――伯爵夫人であった。

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