運搬Ⅶ
お茶と菓子を前に、勇輝たちは伯爵夫人と会話をする。
一日目の時にはぎこちなかった表情と声音が、嘘のように消えていた。
「え、魔法学園で生徒会長を!?」
「そうよ。その時に書記だったのが、シルベスター伯爵よ。あの人、トップに立つよりも誰かをサポートする方がやりがいがあるって言ってたわ。今もそれは変わってないみたいだけど……」
クレアの驚きを嬉しそうに頷きながら目を細める伯爵夫人。クレアもまさか、自分の大先輩に当たる魔法学園で同じ生徒会長を務めていたとは思わなかったようで、今までにない声を出してしまっていた。
「あの時はいろいろルールも緩くてね。教室までの移動に箒を使って移動したりしていたわ。もちろん、先生たちは顔を真っ赤にして怒るし、魔法で捕まえようとしてくるのだけど、それを躱すのがまた面白くってねぇ」
(やっぱり、貴族の上位に来るほど、いろいろとぶっ飛んでる人が多いんだな)
とてもではないが、言葉にはできないので、心の中に留めておく。ただ、それでも顔に出ていたのか、横から桜に肘で突かれてしまう。思わずサクラを見ると、彼女は眉を顰め、ただ顔を横に振るだけだ。
「そういえば、俺もクレアのお母さん――ビクトリアさんに箒に乗せてもらったことが何回かありますけど、箒の操縦は難しいんですか?」
「そうね。難しいというよりは慣れの問題だと思うわ。無闇に魔力を流すと、上空に放り投げられたり、その場でバク転してしまったりと大変なことになるの。少量の魔力を流しながら、どこに流せば上昇や加速するのかを理解して、覚えることが重要ね」
それを聞いて勇輝は頬を引き攣らせる。伯爵夫人が言っているのは、無数にある何が起こるかわからない――もしかすると死ぬ可能性もある――ボタンを片っ端から押してみて、そのボタンの役割を覚えて行けばいいと言っているようなものだ。正直、落下恐怖症の勇輝はそんな危険な乗り物を操縦してみたいとは思わない。
「俺には無理そうかな……」
「そうかしら、あなたたちは良い風を纏っている感じがするから、上手く飛べそうなのにもったいないわ」
伯爵夫人の視線は勇輝だけでなく、桜やクレアにも注がれていた。
当然、それに戸惑う勇輝たち。一拍遅れて、桜の口から疑問の声が漏れる。
「その、箒に乗る才能があるか、わかるんですか?」
「えぇ、雰囲気というか、纏っている魔力の感じとかでね。見えないけど、その分、肌で感じるのよ。箒に乗る時には、その感覚が大切なの。特にあなたの場合は、そちらの二人よりも飛び抜けているわ。もしかして、何度か空を飛んだ経験があるんじゃないかって、思ってたのだけど」
「私の場合は、式神という自分の小さな分身を生み出して、それを飛ばせることは何度かしたことがあります。でも、箒の経験は――」
「素敵! 箒も無しに飛ぶ方法があるだなんて。和の国の魔法も面白わね」
二人の会話を聞きながら、勇輝は箒で空を飛ぶ適性について考えて見る。
桜の場合は、既に自力で空を飛ぶことを経験しているので、その応用が効きやすいとも考えられる。対して勇輝は、他人の力で空を飛んだことがあるが、自分ではないのでそれには劣るということかもしれない。クレアもビクトリアに箒で空を飛んでもらったことは可能性としてはありうる。そうなると勇輝と同じような評価で、桜に及ばないのも頷けた。
(俺も、ビクトリアさんに乗せてもらった時に、箒の操縦の仕方を教えてもらえば良かったかな。まぁ、一度目は時間感覚が狂ってたし、二度目は蓮華帝国の侵攻作戦中でそろどころじゃ……)
そこまで考えて勇輝は、伯爵夫人へと視線を移す。最後に気がかりになっていた新種の魔物。それらの原因を解決できるかもしれない一手を思いついたからだ。
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