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運搬Ⅵ

 もう年末も近付いているので、実際に依頼に行くのは年が明けてからになるだろう。


 そんな話に花を咲かせていると、勇輝たちの背後から声がかかった。



「あらあら、もう枝を切り終わったの? 聞いてた話だと明日までかかるって……」



 伯爵夫人が驚いた様子で、騎士たちが運んでいる枝へと視線を送る。想定外のことで言葉が出てこないのだろう。何とか勇輝たちへと視線を戻しはしたものの、目が揺れ動くばかりだ。



「すいません。何か、自分の刀でやったら上手く切れてしまいまして……」

「和の国の剣は鋭い切れ味だと聞いたことがありますが、それほどとはね。ただ、早く終わったことはいいことだわ。時間もちょうどいいし、お茶会はいかが?」



 伯爵夫人のお誘いに勇輝はクレアに視線を向ける。昨日の食事でのことを考えれば、答えは決まっていた。だが、それでも確認は必要だろう。


 クレアが小さく頷くのを見て、勇輝は笑顔で伯爵夫人に返事をする。



「もちろんです。ぜひ、お願いします」


「うふふ、枝を収穫してしまったから明日にはできないものね。昨日はクレアちゃんの話を聞かせてもらったけど、今日はあなたたち二人の話をたくさん聞かせてもらおうかしら」



 冬の寒い空気さえ吹き飛ばすような伯爵夫人の笑顔は、彼女の名が示すように花のように明るかった。こうしてはいられないと、急いで踵を返す姿は、孫が来ることが分かったおばあちゃんにも見える。


 見ている勇輝まで笑顔になってしまっていると、桜が勇輝の腕を掴んだ。



「ほら、勇輝さん。ポピーさんを一人で行かせるのも良くないから、一緒に行こう」


「そうだな。とりあえず、どんな話をしようか」


「せっかくだし、私たちの学園での生活の話とかしてみない? ポピーさんの時の学園生活も聞いてみたいし」


「そりゃいいや。昔の魔法学園とか、どんな感じだったか俺も気になる」



 二人で駆けて行く背中を見て、クレアはメリッサと共に歩きながらぼそりと呟いた。



「あれが、若さか」


「クレア様もほとんど年齢は変わらないと思いますが?」


「肉体じゃなくて精神の話。無鉄砲とも違うナニカのことだよ」


「クレア様も十分――いえ、何でもありませんよ」



 途中まで言いかけて、メリッサは口を噤む。もちろん、わざとなのだろうが。メリッサにいつもは強気に出れないクレアだが、今回ばかりは目が笑っていない笑顔で威圧している。



「まったく、母さんの息がかかってるだろうって警戒してたけど、結局、何もなかったし……。謎の魔物の依頼についても上手く解決までは行きそうにないみたいだから、こっちとしては消化不良なの。そこに変なストレスを掛けないでくれる?」


「これから、もっと負担は増えますよ。クレア様なら、これから他の貴族の方といろいろお話することになっても問題ないでしょうけど」


「冗談はやめて。生徒会の書類整理と貴族の書類整理を一緒にするようなものよ。圧倒的に経験が足りないから、油断すると相手に喰い尽くされ――」



 クレアが文句を言っていると、勇輝たちが彼女を呼ぶ声が届く。



「おーい。クレアも早く! 話をするなら一人でも多い方が良いだろ?」


「――ま、そういう堅苦しい話は馬車での移動までとっておきましょうか。ほら、いくわよ。メリッサ」



 クレアが仕方ないとばかりに足を早める。彼女に合わせてメリッサも歩調を合わせて冷たい風を切って行く。


 そんな二人を城の門の前で勇輝たちは待ち構えていた。



「悪い。何か、大事な話でも?」


「いーや。メリッサがあたしを虐めてくるから言い返してただけ。続きは帰りの馬車までお預けだけどね」


「……それ、クレアが喧嘩を売っただけじゃないよな?」


「おっと? いったい、誰のおかげで馬車に乗って来れたのか。自分の胸によく聞いてみた方が良いんじゃないか? 帰りに走って帰ることになりそうだけど」


「すいませんでした。許してください」



 即、頭を下げる勇輝。それを見て、伯爵夫人は手を叩いて大笑いする。



「あら、クレアちゃん。ずいぶんと猫を被ってたんだねぇ」


「仕方ないじゃないですか。この中だと、そういう振る舞いができるのは、多分、自分だけなので」


「いいわよ。これで、今日はもっと楽しくお茶が飲めそうだから」



 伯爵夫人は今までになくご機嫌で、まるで彼女も勇輝たちと変わらない年代の少女のように笑う。控えていた執事やメイドも、嫌な顔一つせず、むしろ、一緒に笑っているように見えた。

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