運搬Ⅴ
城の庭でコートの中に入れた枝を渡された時のように騎士たちへと渡していく。
その数に間違いがないことを確認し、勇輝はほっと息を吐き出した。白い息が空中であっという間に消えて行くのを見て、この後はどうなるのかを考えていると、騎士の一人が近付いてきた。
「非常に助かりました。まさか、一日と経たずに全ての工程を終えられるとは思っておりませんでした。ご協力、感謝します」
「いえ、こちらこそ、お忙しい時に手伝っていただいて助かりました。それで、俺に何か用ですか?」
「えぇ、シルベスター伯爵に予め王都へと送って欲しい枝の数を言われていたので、それをまたしまい直していただこうかと。具体的に言うと、細い枝とそれより大きめの枝をそれぞれ集めた一割ほど。大本の一番太い部分は全てと聞いています」
完全にロジャーが開発した勇輝のコートの能力を前提にした条件だ。元々、二人は繋がっているらしいので、コートの能力も筒抜けなのだろうが、それにしても隠す気が無いのは困る。
何せ、鞄型の物で相当な金額になる代物だ。それを服という形にした結果、鞄すら持たずに戦闘に集中できるというメリットが追加されたのだ。それが噂になれば、面倒なことに巻き込まれる予感がしていた。
(まぁ、変な事件に巻き込まれなかったことなんて無かったし、その時はその時か)
半分諦めモードになりながら、騎士の用意してくれた枝を順番に回収していく。出し入れする際に必要な魔力は、その大きさや量に関係なく一定の為、特に魔力が枯渇する心配もない。
勇輝は流れ作業で枝を収納し終える。全て終わったのを見て、桜たちが勇輝へと近寄って来た。
「傍から見ていたけど、本当に便利だな。王都に戻ったら、一緒に依頼に行かない?」
「時間があればね。でも、今の流れからすると、大量の何かを採取するとかそういう類の依頼になりそうだけど何をやるつもり?」
「王都の近くに火山があってね。そこの周辺だと、ガタイの良いシカやイノシシが結構いるんだ。あの辺りにはそれを襲う魔物もいないから、増えすぎないように冬場でも狩りが推奨されててね」
「あぁ、一匹でも運ぶのが面倒だけど、俺がいたら何匹でもいけるからな。まぁ、気が向いたらというか、変なことに巻き込まれていなかったらいいよ」
勇輝はそれくらいなら問題はないだろうと承諾する。
コートを軽く引っ張って、しわにならないように整えながら、ふと思い出したように呟いた。
「そういえば、あんまり鹿の肉って食べたことないな」
「あれ? そうだったっけ? 勇輝さん、和の国にいた時にそういう料理とか食べなかったの?」
「あぁ、蕎麦とか団子とかは食べたけど、そういう物はあんまり食べてなかったな。雛森村にいた時は、ご飯に、味噌汁と漬物。後は焼き魚が基本だったし。猪肉もこの前初めて食べたばかりでさ」
今思えば、起床から就寝まである意味で健全過ぎる生活を送っていた、と勇輝は苦笑いする。
それから解放された分、しっかり自分を戒めないとだらだらと過ごしてしまいそうだ。寒空を見上げながら、学生時代の年末年始を思い出す。
「じゃあ、その狩猟依頼で出た肉を持ち込みで料理してもらおうか? いや、それなら、あたしの家の料理人が出している店でやってもらえそうだし、そうしよう!」
クレアはその類の肉が好みなのか、俄然やる気に満ち溢れている。その様子に後ろでメリッサが呆れながらも微笑んでいるのが、勇輝からすると少し面白くはある。尤も、そんなことを言えば、クレアたちに何て言われるかわからないので、口は閉じておいた。
「因みに桜はそういうお肉とかの経験は?」
「村の人が時々持ってきてくれたから、食べたことはあるよ。でも、こっちの国ではまた違った調理方法とかになりそうだから興味はあるかも」
「じゃあ、桜の杖が完成した時にみんなで行かない? そうすれば、きっと食事も大勢で楽しくなりそうだし」
そんな提案をすると、クレアは当然とばかりに大きく頷いた。
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