迷宮Ⅴ
全員が周りの光景に呆然としていると、謎の少年は首を振ってため息をついた。
「やっぱり、駄目だったんだ。ここから出るのは……」
「おい、そりゃ、どういう意味だ」
呟いた言葉を聞き逃さなかったマリーは少年へと詰め寄った。
「僕たちはこのダンジョンに閉じ込められたんだ。僕のパーティもここ数日間ずっと彷徨って、入口を目指していた。でも、階段を上っても転移を使っても全然違うところにしか繋がらないんだ」
「そんな……」
衝撃の言葉に言葉を失うサクラ。その横でアイリスが目を細めた。
「あなたの仲間は……どこ?」
「――――やられたよ。残っているのは僕一人さ」
その言葉にユーキ以外の全員の血の気が一気に引いた。ここは学園のダンジョンだ。当然、貴族の子女もたくさんいる。そのような場所で運営されるダンジョンなのだから、安全対策は万全を期していなければならない。
彼の言葉の重さから、それは明らかに別の意味を持っているように聞こえた。
「なぁ、そのやられたっていうのは」
「死んだってことだよ。モンスターにやられても転移せずに、どこかへ連れ去られるんだ。もう、生きていないだろうさ」
「まだ、死んだと決まったわけではないんだろう? だったら、まだ何とかするチャンスがあるはずだ。まずは上を目指そう」
ユーキが手を差し出すが少年は首を振った。
「君たちは何階層にいたんだい?」
「五階層のボスの後の部屋だ」
「そうか。あと五階層ならいいんだけどね」
「どういうことだ?」
自嘲気味に呟く少年に今度はフェイが詰め寄った。フェイに顔だけ向けると諦観して表情で呟いた。
「僕たちのパーティは十七階層から戻ろうとした。そして、階段が存在しない階層のせいで定かではないけれど、二十階層分は踏破したんだ」
「まさか……」
フェイは少年の言っていることに気付き、心臓が跳ね上がった。
「そうだよ。どんなに昇っても永久に脱出できない可能性があるってことさ」
「う、嘘だろ……」
気弱そうに見える少年も自棄になっているのか。口調はところどころ荒々しく、棘がある。そんな少年もまだ諦めきれていないのか、時折、その視線がユーキの手へと動く。
「俺たちはまだ戻るつもりだ。最悪、三日経てば外にいる仲間が援軍を寄こしてくれるからな」
「援軍……?」
「そう。辺境伯のローレンス伯爵だ」
「あの、でたらめに強い伯爵が!?」
今度はユーキの言葉に少年が驚く番だった。その瞳には光が宿り、生きる活力が湧き始めているようだ。
「あぁ、ここにいるのが伯爵の娘さんだからな。多分、そのままの勢いでダンジョン踏破しちゃうんじゃないか?」
「い、いやぁ。それはそれで娘として複雑なんだけどなぁ」
苦笑いするマリーをよそに、少年はユーキの手を取っておもむろに立ち上がった。油断していたユーキはよろめきながらも引き起こす。
「僕の名はケヴィン。魔法学園の三年生だ。得意なのは回復魔法とちょっとした風魔法くらい。良ければ君たちに同行させてほしい」
「俺はユーキ。俺は構わないけど、みんなは?」
ユーキは周りを見渡すと全員即答で頷いた。お互いに自己紹介を済ますと、知っている情報を交換することにした。
ケヴィン曰く、「水晶と階段の両方がある階層もあれば、どちらしかない階層も存在する」らしい。敵の強さは何とか倒せる程度らしい。どんなに深くとも浅くとも階層に強さの違いが出ないというのは疑問ではある。
逆にユーキたちが知っている情報はほとんどなかったが、最初の階層から既に違っていることとサファイアゴーレムの存在については、ケヴィンが強く反応する。
とりあえず、話が長くなりそうだったので、彼に魔力ポーションを飲んでもらいながら話してもらうことにした。階層違いについては、首を傾げた後、ケヴィンは小さく唸り声をあげる。
「最初からってことは、入口自体に問題があったのかな。いや、そんなことができる人はほとんどいないはずだ。それこそルーカス学園長とか宮廷魔術師クラスじゃないと無理だろうな……」
サファイアゴーレムに関しては、興奮気味に食いついてきた。
「あれ、あの階層に出る超レアボスなんだよ。回復魔法のブーストに使える水属性の魔石が核に使われていて、物によっては金貨が何百枚あっても足りないんだって。羨ましいなぁ」
ケヴィンに不足していた魔力が回復してきたところで、今後の方針については全員で話を始めた。一番状況を把握しているケヴィンが発案し、周りが意見を述べ、フェイがまとめる。最終的な目標としては、可能な限り徒歩で上の階層を目指すということだ。
「転移魔法で別の意味で最初に戻されたらたまらないからな。極力使わない方がいいだろう」
フェイの意見にケヴィンはもちろん、全員が同意した。その中で唯一ユーキだけが乗り気ではなかった。その視線の先には先ほど使われた水晶が存在している。
「ユーキ、どうしたんだ」
「いや、もしあの水晶をもう一度使ったらどうなるのかなと思ってさ」
「そんなのさっきの部屋に戻るだけじゃないのか?」
「そうだったら、彼がここに跳んできたのはおかしいだろう。水晶の転移魔法が一対一対応していないってことだからさ」
――――何か法則があるんじゃないか。
そうユーキは考えたが、情報が少なすぎて判断できずにいた。ユーキの魔眼には、水晶から何の怪しい輝きも見出すことはできなかった。
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