選定と剪定Ⅵ
光が重なれば強く、濃く。そうでない場所は弱く薄くなっている。
では、薄い場所ならばより簡単に切れるかと言われるとそうでもない。そこに心刀を合わせたところで樹木はそこにはない。切るべき物体が存在しないのだから、切れるはずがなかった。
(じゃあ、どうしたら切れるんだ? 条件は?)
勇輝は心刀をゆっくりと切り口へと押し付ける。当然、掌に返って来る強い感触を考えると、これ以上深くなるようには思えない。しかし、勇輝は緑の光を見つめたまま力まずに体重をかけ続けた。
『おいおい、力任せってわけじゃないんだろうけど、随分と雑な使い方だな。普通の刀が意志を持ってたら怒るところだぞ』
心刀の抗議を無視して、勇輝はさらに肩から力を抜く。
クレアに押された瞬間も、かつて黒曜石の塊を切った瞬間もそこまで強い力は使っていない。間違いなく魔眼が見せている光景と関係があるはずだ、と勇輝は考えた。
(巨大な骸骨の足を切った時もそうだ。無我夢中で刀を振るった結果、何故か刀の長さ以上の太さの骨が切れたんだ。だとすれば、その原因は魔眼以外にありえない)
日ノ本国で明らかになった勇輝の魔眼の名は「蒼玉の魔眼」。青系統の魔眼の頂点に立つとされているもので、その特性は何かを要因として変化すると言われている。
知る者たちの中には、一歩間違えれば自分も含め、大勢の人が死ぬ可能性があると告げた人物もいた。
(この魔眼の能力は何だ? 硬い物を簡単に切れたと考えると、抵抗をゼロにできるとかか? それなら、切っちゃいけない物まで切れてしまうから危ないって言うならわかるけどさ。流石に大勢の人が死ぬとか……ないよな?)
否定しようとして勇輝は頬が引き攣る。心刀の長さ以上の物を切断できたのだから、その距離がさらに長く――極端な話、この異世界の星を両断するようなことになれば大勢が死ぬどころの騒ぎではないだろう。
数秒ほど考えていると、心刀がわずかに動いた。それも下方向へとめり込むように。
はっとして勇輝が緑の光を注視すると、複数の光が本来、枝がある位置へと寄っているように見えた。
(枝自体との距離が近いほど、切れやすくなる? でも、俺に見えている光をコントロールできるわけが――)
そこまで考えたところで、勇輝は目を細めたり、逆に大きく開けたりしてみる。すると、それに合わせて光が大きく動く。今度は焦点を手前や奥にしてみると、これもまた光が動いて、枝との距離が変化していた。
「いけ、るか?」
何となくできそうだ、という気持ちがしてきて、勇輝は何とか最も濃い実際の枝と同じ場所に輪郭がある光へと他の光を合わせようとする。メインの光とは別に二つの光が揺れ動くので、どちらか一つを合わせようとすると、もう一つがなかなか合わない。
流石に数十秒も硬直して、枝を凝視していることに周囲は期待から一転、諦めムードが漂い始めていた。
「あー、勇輝。悪かったって、そんな真剣にならなくても、他の騎士の人たちが頑張ってくれるから、一回下に戻ろう」
「いや、あと少しだけ……あともう少しなんだ」
クレアの言葉を振り払うようにして、勇輝は言葉だけを返す。瞼以外が全く動いていない勇輝の姿を見れば、多くの者が何か呪いにでもかかってしまったのではないか、と疑ってしまうだろう程に異常な姿だった。
クレアも伸ばし掛けた手を下ろし、周囲の騎士たちを見回す。
言葉にこそ出していないが、明らかに待ちくたびれている。クレアが意を決したように勇輝に向けて、肩を掴もうと手を伸ばしたその時だった。足場に何かが落ちる音と、枝が擦れる音が響いた。
「……ホントに?」
クレアの口からは信じられないとばかりに声が漏れる。包丁で人参でも斬ったかのように、綺麗な断面が見えており、勇輝の足元には枝が転がっていた。
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