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選定と剪定Ⅴ

 刀を振り下ろすとかそのような次元ではない。もはや前に躓かぬように勇輝は心刀を枝に押し付けて、何とか姿勢を維持することに精一杯だ。


 そんな勇輝の肩を掴んだまま、クレアが後ろへと体を引いてくれる。



「……言われた通りにやったけど、ダメっぽいね」



 クレアに支えられて何とか上半身を逸らして起き上がった勇輝は、クレアの呟きを聞いて視線を降ろす。


 この状況でクレアに指示を出す存在など一人――いや、一振りしかいない。汗ばんだ手で心刀を思い切り握りしめると、平然とした様子で思念が届く。



『おかしいな。上手く行くと思ったんだが……』


(よくもそんな思い付きでやってくれたな。まぁ、足場は広く確保されているから落ちるほどではなかったけど、心臓に悪かったぞ)



 勇輝は心刀を持ち上げて波紋の辺りを上から下まで睨みつける。その光の反射は美しく、怒りに燃えている勇輝であっても見惚れてしまいそうになるが、今回ばかりは怒りが勝る。


 そんな中、周囲の騎士たちがどよめいていた。



「おい、今のだけでこんな風になるのか?」


「マジか。俺、夢見てるんじゃないよな?」



 口々に放たれる騎士たちの疑い混じりの歓喜に、勇輝はようやく周囲の様子がおかしいことに気付く。


 それはクレアも同じだったようで、騎士たちが向けている視線を辿っていた。



「おい、勇輝。あれ、見てみなよ!」


「はぁ? 別に何にもおかしなところなんてないだろ?」



 勇輝はクレアが指差した方ところを見る。それはちょうど勇輝が心刀を当てていた枝の部分だ。表皮の部分よりも黒いので気付くのが遅れたが、わずかに切れ込みが入っている。


 ただ、せいぜいそれだけだ。あと何十回やっても、その程度では切り落とすことなどできるはずがない。



「いや、よく考えてみなよ。あの傷をつけるのに何分かかると思ってるの?」


「……どれくらいですか?」



 クレアの問いかけに想像がつかないので、近くで聞いていた騎士に勇輝は質問してみる。


 目を丸くしたまま突っ立っていた騎士は、勇輝に話しかけられて驚きながらも何とか答えを返した。



「全力で斧を振るって五分かかるかどうか、ですね。それをあの数秒でつけられたとなると、その刀はどこかのダンジョンから出たレアアイテムですか?」


「い、いえ、そんな大層な物ではないです」



 ここに来て勇輝は心刀の付けた傷が、騎士たちにとってはかなり深い物であることに気が付く。


 周囲の騎士たちは既に斧の頭を足場へと付けて、勇輝が続けるのを待ち構えているようだった。



「もしかして、もう一度やれ、と?」


「そりゃそうだろ。こんだけ早く傷がつくなら、本当にあっという間に切れるんじゃない?」



 クレアに背中を叩かれながら枝の方へと向き直らされる。


 白い息を長く吐き、勇輝は心刀へと問いかけた。



(それで? 少し切れた感想は?)


『あぁ、ちょうど、そのことも言おうと思ってたんだ。この枝、一本に思えるが、実際は三本あると思った方が良いぞ』


(……どういうことだ?)



 心刀の説明に勇輝は首を傾げながらも、切れ込みに刃を合わせる。



『この樹木は、伯爵とやらがいくつかの樹木を融合させて作った物だと言っていただろ? だから、目で見えるのは一本なんだが、実際は三本分の硬さがあるというか。上手く説明できないが、お前の眼なら少しはわかるんじゃないのか?』


(そんなことを言われても、緑の光ばっかで……)



 心刀に言われて勇輝は枝へと魔眼を向ける。すると、同じ緑でも濃いところと薄いところがあるのだが、それぞれの輪郭を辿っていく内に勇輝の見ていた光景が変化し始める。


 乱視のように、全く同じ枝の形をした光が上下左右前後に揺れていた。時には数センチ、時には数ミリの距離で近付いては離れたりを繰り返す。

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