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選定と剪定Ⅲ

 振り下ろされた斧が勇輝の胴くらいある枝に当たると、甲高い音が当たりに響き渡った。



「え、本当に木ですか? アレ!?」



 勇輝が騎士へと尋ねると、彼は苦笑いで頷く。



「えぇ、間違いなく木です。春にはまた新たな葉をつけ、花を咲かせる生きた木です。それは私が保証します。そして、この木は昨日も言ったように非常に硬いです。それこそあの斧を何度も振り下ろして、やっと傷がつくかどうか。皆が身体強化を施して、交代しながら常に全力でやらないといけません。油断すると手首を先に折られることにもなるので、力任せにやるのも駄目ですね」



 およそ二十回ほどの音が響くと、斧を振るう騎士が交代する。わずかな時間で全力を尽くしている結果なのだろうが、傍から見ていると開いた口が塞がらなくなる。いくら騎士を多く引き連れているからといって、これだけ短時間での交代となると半日も続けられないのではないかと心配になる。


 その一方で、他の騎士たちは葉を魔法で切り落とし始めていた。



「まぁ、もしかすると、今日だけでは幹からの切り離しは終わらないかもしれないですね。岩とか金属とかを切る魔法があればいいんですが……」


「岩を、切るか……」



 勇輝は斧が振り下ろされている箇所を見つめながら、魔眼を開く。


 植物から放たれる緑の光を放ち、青や黄の光が時折混ざっていた。斧が当たると光が強くなり、銀色の輝く斧を弾き返す。



(なあ、前に俺さ。黒曜石の塊みたいなものを切ったことがあるんだ。まるで羊羹みたいにさ)


『ほう、それはまた凄いな。斬鉄や斬岩はそう簡単にできる芸当じゃない』


(しかも、それって全力で振りぬいたわけでも何でもないんだ。魔眼で見て、何かイケるなって思ったら、刀が沈み込んだように入ってさ。上手くやれば、あの樹木も切れるんじゃないかなって。ほら、デカい角の生えた鬼の骸骨も刀より長いのに、足の骨を切っただろ?)



 勇輝の考えを心刀は肯定するでもなく、否定するでもなく聞いていた。


 勇輝の問いから数秒が経過し、風が足下の草が何度か揺れる。どうしたものかと勇輝が心刀を中指の関節で小突くと、心刀は真剣な声で勇輝に提案をしてきた。



『だったら、切ってみるか? あの枝を』


(それが出来るんだったら苦労はしないって)


『やる前から諦めるとか、そういう男じゃないだろ、お前は。内心はお試しで一回くらいやったら、案外できるかもとか思ってんだろうが』


(くっ、よくもまぁ、人の考えていることを当てられるな)



 普段から「俺はお前だ」などと名乗っているだけあって、勇輝の考えなどお見通しのようだ。


 ただ失敗した時のことを考えると、それはそれで恥ずかしい。一生懸命やっている騎士たちの作業を中断することにもなり迷惑がかかる。



『考えてもみろ。お前がここで枝を切れたら、騎士たちの自由に使える時間が二日分増える。お前も桜と一緒に早く王都に戻ってゆっくりできる。いいこと尽くめだろうが』



 心刀の言っていることは正しいのだが、このような状況で自分にやらせてくださいと言う勇気は持ち合わせていない。あと一つくらい、何かきっかけがあれば一歩を踏み出せるのだが、少なくとも勇輝には、そのきっかけとなる理由が見つけられなかった。


 白い息を吐き出して枝を見上げていると、そのきっかけは意外にも桜の口から飛び出した。



「そういえば勇輝さん。前に岩を刀で切って無かったっけ?」


「うっ……まぁ、確かにそんなこともあったな」



 自分で気付くのと、それを他人の口から指摘されるのとでは大きな違いがある。しかも、それを知らない人がいる前で堂々と言われてしまえばどうなるか。その答えはとても簡単だ。



「何だよ、勇輝。そんなことなら、自分で切って来ればいいじゃないか」


「いや、そんな芸当がいつもできるなら苦労はしないって」



 勇輝は両手を振ってクレアに反論するが、彼女の視線は既に騎士の方へと向けられていた。

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