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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第29巻 比翼連理の杖

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双頭の狼Ⅷ

 形成されていた火球を貫いたのは、クレアが投げた短剣だった。


 身体強化を施した膂力で放たれたそれは、回転しながら空を裂いて飛び、そのままオルトロスの喉へと突き刺さったようだ。



「おっと、これはラッキーじゃん! 今の内にやっちゃえ!」



 クレアの声が勇輝の背を押す。


 火球が不発に終わり、咽ながら炎を吐き出すオルトロスへと勇輝は接近する。極限まで魔力を回した勇輝の体は、一瞬でオルトロスの目の前に辿り着く。



「はっ!」



 炎が邪魔をするので、急遽、右前足へと目標を切り替える。右から左へと心刀を振りぬくと、足の半分を切り裂き、骨も削り取る感覚が手に返って来た。


 痺れそうになる衝撃を何とか堪え、心刀を握り直す。


 当然、オルトロスはそのような脚で立っていることなどできるはずもなく、体が崩れ落ちていく。



「もう一丁!」



 その動きは勇輝にとっては、あまりにも遅い。落ちて来るオルトロスの胴体を高速で潜り抜け、反対側の左前脚の後ろから駆け抜ける。今度は左から右へと放たれる横一閃。火の粉の光を照り返し、心刀が煌めいた。


 一撃目よりも深く食い込む感触があった。その一方で、手が痺れるような反発は帰ってこない。もし、もう一撃放てば、骨など気にせずに両断できる自信があった。しかし、今更、後ろ脚など攻撃する必要などない。何せ、生物として最も守らなければならない生命維持に必須の部位が、無防備に近付いて来ているのだから。


 日本の前脚を失い、地面に顔面から突っ込んでいくオルトロス。最後の抵抗とばかりに口を開き、勇輝を噛み砕こうと迫るが、ただの重力に任せた落下の速度などたかが知れる。



「その首を切り落とすのは難しそうだな。だけど、殺すには十分だ」



 頭へと迫る咢をほんの一歩横へ飛び退いて躱す。わずかに抉れた地面にオルトロスの牙が突き立てられる。それを最後まで見ることなく、勇輝は前へと足を踏み出した。


 左斜め上から右斜め下へと振り下ろす逆袈裟斬り。本来ならば、人の首から脇腹までを通る一撃を、勇輝はわずかな地面と胴体の隙間を掻い潜りながら、心刀をオルトロスの喉へと振るった。



「こんなもんか……」



 勢いを殺さずに振り返って霞構えで警戒した勇輝は、オルトロスの放つ光が急速に弱まって行く姿を見て息を吐いた。


 遅れて、おびただしい量の血液が首から地面へと流れ出ていく。



『あんまり満足行く切れ方じゃなかったな』


「そうだな。前みたいに、お前以上の長さの物も一撃で切れるくらいにはなっておかないと――まだまだ鍛錬不足だな。また今度、適当な奴を用意しておいてくれ」


『はいよ。それよりも――』



 心刀の声が言い切られるよりも早く、勇輝は反転して腕を振るう。


 すると飛び掛かって来たボルフの双頭が同時に上下に分断され、胴の半ばまで心刀が喰い込んだ。



「わかってるよ。まだボルフが残っていることくらい」


『いや、それもそうだが……最大解放の反動は?』



 心刀が心配するのも無理はない。何せ、身体強化の効果を極限まで高めた結果、周囲の速度が遅く感じるほどの高速行動が可能になる反動で、一定時間を過ぎると体の反応が追い付かなくなり、思考速度だけが早いままになってしまう。



「あぁ、流石に何度も使っているおかげで、多少は慣れたっぽいな。違和感はあるが、もう一度使わなければ今日は普通に過ごせそうだ」


『そうか。そりゃあ、頼もしいな。まぁ、精々、油断して寝首を掻かれるなよ?』



 一斉に襲い掛かって来るボルフを前に勇輝は、余裕の笑みを浮かべる。


 飛び掛かって来るボルフを避けると同時に一振りで絶命させる。後はその繰り返しだ。多少、周囲を囲まれたくらいで攻撃を喰らう鍛錬はしていない。


 ボルフを倒しきり、勇輝は騎士たちが対処している方向に目を向ける。ボルフの群れはほとんど討伐され、残るは燃える林への消火作業だけだ。障害が排除されたことで、消火活動も一気に進むだろう。


 水魔法が使えない勇輝たちにできることは、ボルフの残党がいないかや他の魔物が襲ってこないかを見張ること。


 幸いにも数十分で炎は消し止められ、特に他の魔物が押し寄せて来ることもなく無事に終えることができた。



「とりあえず、ゆっくり寝たい……」



 そうぼやいた勇輝の言葉は寒空の下、誰に聞かれるということもなく消えて行った。

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