双頭の狼Ⅵ
土煙と火の粉が空中に舞い上がる中、オルトロスへと騎士たちからの攻撃が集中する。
さきほどまで放たれていた水の槍は止み、オルトロスの迎撃を優先したようで、岩の槍や石礫魔法が殺到していた。
「効いていないわけじゃない。だけど、桜のに比べて傷が――」
桜の魔法は初級魔法なのに、筋骨隆々とした前脚を貫いていた。しかし、騎士たちの放つ中級魔法はかすり傷程度で、ほとんどダメージを負っているようには見えない。
『一定の攻撃力以下の魔法は、効きにくいらしいな。もしかすると、物理攻撃も同じかもしれない』
「なるほどな。あの身に纏っている黒っぽい光は、魔法障壁か何かか。通りで俺のガンドのダメージが少ないわけだ」
何度も揺れる地面にやっと慣れて来た勇輝は、心刀を構える。
オルトロスが倒れ伏し、そこから逃げて来たボルフが勇輝たちへと向かって来ているところだった。ガンドの装填が完了するまでは近接戦闘で凌がなければならない。
「ふっ!」
軽く息を吐き、飛び掛かって来たボルフの横を抜ける。そのまま、心刀を横一閃に振りぬくと、片方の頭部から胴までが深々と切り裂かれた。着地と同時に体勢を崩し、血が地面へと流れ出る。無事な方の頭部が火球を放とうとしているようだが、それよりも先に命の灯火が消える方が先だった。
さらに数匹が襲い掛かるが、勇輝の心刀とクレアの剣が空中で白銀の煌めきを何度も放ち、ボルフたちの命を奪っていく。
「クレア、大丈夫か?」
距離を取るように警告したクレアが再び隣に立っていることに驚いた勇輝は、ボルフとその奥に倒れたオルトロスから目を離さずに問いかける。
炎で生み出された熱風に赤いポニーテールをたなびかせながらクレアは不敵に笑った。
「こんなのでビビッて退却するほど柔な鍛えられ方はしてないよ。流石にさっきのは焦ったけどね」
白い肌を汗の雫が一筋流れ落ちる。それは熱風によるものか、はたまた冷や汗か。それは彼女自身にもわからないだろう。
勇輝は立ち上がろうとするオルトロスを目にし、クレアへと援護を要請する。
「ガンドであいつを何とかする。ボルフが邪魔をしないように守ってくれ」
「あたしに命令をするとは偉くなったね。でも、良い判断だ。任されてやるよ!」
勇輝が心刀から右手を離し、ガンドの構えをする。それを隙と感じ取ったようで、ボルフが勇輝に向かって駆け始める。
左側は心刀で牽制できるが、前や右側まではカバーできない。そこをクレアが割り込んで、ボルフを叩き切って行く。
見た目の細腕からは想像もできない怪力。化け物じみた力を振るうローレンス伯爵の教えの賜物か。身体強化によって膂力を高めた一振りは、心刀に勝るとも劣らずといった切れ味で、ボルフを両断してしまう。
(あと少しで装填完了。それまで大人しくしててくれっ!)
前脚を庇いながら体を起こすオルトロス。少しは気勢が削がれていてくれ、と願うも、その瞳に宿った怒りの炎を見て、勇輝は覚悟を決める。
魔眼に映し出されたオルトロスの動きを見逃さぬように目を見開いた。
ゆっくりとオルトロスが放つ光が左側へと伸びていく。真っ直ぐに突っ込めば返り討ちに合うと学んだようだ。前脚を石礫魔法が貫通したとは思えない軽やかさでオルトロスは跳ねる。
それを寸分違わぬどころか、その先へと勇輝の人差し指が動いていた。
「――っ」
一瞬、息を止める。体の振動を最小限に、腕をまっすぐ伸ばして照準ズレを防ぐ。
コンマ数秒の後、魔力を籠めた弾丸を解放した。
風鳴り音を伴って放たれたそれは、火の粉を漏らす片方の口へと吸い込まれるようにして駆け抜けていく。
「……今のを避けるか」
不可視の弾丸だが、それでも何かを感じ取ったのだろう。顔面に炸裂する筈だったガンドは、オルトロスが咄嗟に首を逸らしたがために、下顎を半分消し飛ばす形で終わった。
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