双頭の狼Ⅲ
勇輝はクレアと共に火と水の魔法の攻防を見ながら、言葉を交わす。時折、炎の熱をもった風が頬を吹き付けていく中、二人の表情は険しくなるばかりだ。
「二人とも水魔法は得意じゃない。俺のガンドは何とか使えるけど、それ以外は――というか、火球の強化版だからさらに延焼を起こしかねない」
「あたしの弓を使うのもいいけど、矢を無駄にするだけかも。それなら、何とかしてボルフをこっちに引き付けられないか、だね」
そう告げたクレアは、ポーチを探るといくつかの携帯食料――特に干し肉――を取り出して、ボルフたちを見る。
すると、すぐ近くにいた数匹のボルフの動きが止まり、クレアの方へと注がれた。
「やっぱりね。魔物とはいえ、この季節には食べる物が少なくて困ってると見た。あいつらが火をつけたのも、兎みたいな小さな生き物を林から追い出すためだ他のかもね。もし、その推測が当たってたら、これで惹きつけて倒せばいい!」
クレアはこれ見よがしに肉を放り投げると勇輝に合図した。その意図を察し、すぐに勇輝はガンドを準備する。
「因みに、勇輝は食料を持ってる?」
「あぁ、もちろん。最悪、街に売ってる奴を補充すればいいから、ここで使い果たしても問題ない!」
「ここでケチって時間を浪費する方が悪手だからね。さっさと倒すよ!」
クレアは剣を地面へと突き刺し、弓へと得物を持ち替える。
肉に向かって殺到するボルフたちを、勇輝のガンドが撃ち抜き、クレアが射抜く。手に収まる程度の肉片で十匹近いボルフを倒すことに繋がった。
しかし、流石に勇輝のガンドの連射が途切れると、クレアの矢では番える時間がかかって攻撃の間が空いてしまう。その間に、一匹のボルフが干し肉を持って行ってしまった。
「まぁ想定の範囲内ってところか? じゃあ、次は俺の番だな」
そう言って勇輝はコートのポケットに手を突っ込むと、そこから似たような干し肉を取り出した。
その姿を見たクレアが、怪訝な顔で勇輝を見る。
「ちょっと、勇輝。前は腰のベルトにポーチを付けてたのにどうしたんだ? まさかとは思うけど、ポケットへ直に入れてないだろうね?」
信じられないものを見たような顔でクレアが悲鳴染みた声を上げる。
確かに食べ物をそのままポケットに入れていたら不潔だと思うのは当然だろう。しかし、勇輝は慌てて干し肉を持った手を横に振った。
「ま、待ってくれよ。これには訳があって――って、そんなこと言ってる場合じゃない。とりあえず、次のいくぞ!」
勇輝はクレアがやったように干し肉を投げる。すると、また十数匹のボルフたちが反応する。
勇輝とクレアが再び近付いて来るボルフを迎撃し始めるが、今度は二人だけではない。先程のボルフの行動に一部の騎士たちも気付いたのだろう。十数本の水の槍がボルフへと襲い掛かる。
『上から見てると、ボルフの数がかなり減少してる。でも、まだ、林の中から出て来てるから、すぐには倒しきれないかも』
「ありがとう、桜! それが分かるだけでも大助かりだ!」
勇輝はボルフをガンドで仕留めながら、さらに干し肉を追加する。その姿を見たクレアが疑問の声を上げた
「うん? 待って、今どこからソレを――」
「クレア。もっとボルフが寄って来るから、話してる暇なんかなくなるぞ。それに矢も少なくなってきた。干し肉付近まで来たのは、剣でやっても巻き込まれないはずだ」
ガンドの魔力装填の時間が惜しいとばかりに勇輝は、心刀を抜き放って前に出る。
風切り音を伴って、どんどん小さくなる勇輝の背を見たクレアは、一瞬のためらいの後に剣を取って走り出した。
「あぁ、もう。前にオークを一人で倒したってわかった時にも思ったけど、見た目に寄らず血気盛んすぎるだろ!」
呆れた声が勇輝の背中に届くと同時に、ボルフの血飛沫が宙を舞った。
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