双頭の狼Ⅱ
威力を抑えて放ったガンドだが、魔物の頭部を二つまとめて貫通し、地面をも陥没させる。あるいは胴体を食いちぎり、またある個体は肩から先が消し飛んだ。
その様子を見て防御力は大したことがないと笑みを浮かべそうになる勇輝だったが、すぐに異変に気付く。
「なるほどね。双頭だから片方の頭を潰しただけじゃ死なないのか」
運良く絶命を逃れた魔物が、血を噴き出させながら地を掛ける。放っておいても失血で死ぬだろう。だが、それまでの数分か数十秒もあれば何かに噛みつくだけの時間はある。それは人にとっては脅威以外の何者でもない。
最後に一矢報いようとでもいうのか、不可視の弾丸の射手を近くの騎士と誤認して飛び掛かって行く。そんなボルフの体が空中で横に吹き飛んだ。
『はっ、魔力の無駄遣いだな。あんなの騎士の槍の――――いや、腕の一振りでお陀仏だっただろうぜ』
「……自分の不始末くらい、自分でつけるさ」
心刀のぼやきを勇輝は一言で斬って捨て、騎士たちの動向を見守る。
最前列が槍を構えて接近を阻止。二、三列目の数百人が槍を構え、水属性魔法の詠唱を始める。その後方では魔法石などで光源の確保を行っていた。
「二列目は魔物の接近に備え、待機。三列目は火災消火の為に魔法を放て! 魔物どもに当たっても構わん! それごとやれっ!」
隊長の号令で一斉に魔法が放たれる。
ボルフの吐く炎で引火した下草が、次々に高圧洗浄のように放たれた水の槍に貫かれていく。さらに水の槍が着弾した箇所で一気に水飛沫が上がり、燃え広がった火に覆い被さって行く。しかし、一度燃え広がってしまったものはそう簡単には消えない。水は蒸発し、周りの火の勢いは衰える様子はない。
「くっ、既に何本かの木に火が燃え移ってやがる。さっさと倒さないと消火活動にも専念できないっ!」
続々と林の奥から、炎をものともせずにボルフが姿を現す。数を増していく魔物の数に、どこまで増えるのかと焦燥感が募り始めた。
『勇輝さん。上から見た感じだと、燃えてるのはそこから数十メートル進んだところくらいまで。魔物もそこより奥にはいないみたいで、勇輝さんたちの方に向かってる。ぱっと見だけど、百匹近くいるかも』
「百か、面倒だな。一人一殺で済むなら簡単だけど、そうはいかない。くっそ、ここがライナーガンマ領だったら、あの時みたく水で囲い込むことができたのに」
人間の皮を被った魔物が潜む林を焼き、水の結界で囲い込んで触れた者を圧殺する。そんな方法で魔物を封殺した例を知っているだけに、その手段が取れないことが辛い。
騎士たちは消火活動を兼ねた水の魔法を高速で射出し、魔物を倒しているようだが、素早いボルフにはなかなか当たらない。しかし、ボルフもその攻撃を掻い潜って接近するのは危険と判断しているようで、火球のような炎を口から放ち、互いに砲撃を撃ち合う様相を呈していた。
「あの中に飛びこんで行けるほど、身のこなしに自身があるわけじゃないからな。ここはクレアと同じように横から攻め込んでやるか」
『敵を回り込ませず、正面と横からの攻撃か。まぁ、戦術としてはありだろうが、遊撃部隊が二人じゃあな』
「それでもやるしかないんだ。それに、騎士の人たちもそれはわかってるはずだ。ほら、魔法石で灯りを用意した人たちが反対側へと向かって行ってる!」
ただ水魔法で魔物を狙うだけではない。時折、巨大な水の柱が林の中に出現したかと思えば、それが崩れて一気に下草の火を掻き消していく光景が見える。それでも依然として火が付いている面積は広い。
勇輝はガンドを放ちながらクレアの近くにまで向かう。剣でボルフの頭を切り裂いたクレアが、飛び掛かって来た別の個体を蹴り上げていた。
「どうした、勇輝。手こずってるみたいじゃないか」
「手こずるって言うか、攻めあぐねてるって方が正解だ。あの中に入って行くほどの蛮勇は持ち合わせていないんで」
「そりゃそうだ。あたしもあそこに入って行く勇気は無いね」
落ちて来たボルフの脳天に剣を突き刺し、そのまま地面へと叩きつける。残った頭部がクレアへと火球を吐こうとするが、勇輝のガンドが消し飛ばす方が先だった。
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