双頭の狼Ⅰ
外壁の外に騎士たちと共に出撃した勇輝たちは、顔を真っ青にした。
昼間に向かった林。それが勢いよく赤い炎に巻かれているのだから。
「燃えているのは中央ではなく、外縁部だ。まだ消化すれば被害は最小限に抑えられる。いくぞ!」
杖の素材探しに付き合ってくれた騎士たちとは違う別の部隊が、隊長の号令で一斉に駆けて行く。装備は剣ではなく、魔法媒体の役割も持つ槍。既に外壁からは魔法を使える領民が、水属性魔法を数百メートル離れた林に向けて撃ち放っている。
「残念だけど、あたしたちの中に水属性が得意なのはいない。だったら、あの騎士を護衛しつつ、出て来た魔物を可能な限り倒すだけ!」
最初に上がってきた報告は驚きこそすれ、理解できる範疇だった。
燃える林の明かりに照らされたのは狼型の魔物。それも新種として報告が上がっていた双頭の狼だったという。口から炎を吐き、林を燃やし始めたところを見張りが目撃していたらしい。
幸か不幸か、外壁の上にいた騎士たちが水属性魔法を使って時間稼ぎをしていたおかげか、林の下草は燃えていても、樹木自体が燃えている数はかなり少ない。
「ウルフ系で炎を吐くってなると、この辺りだったら『ボルフ』かもしれないね。かなり生息域から離れているけど、それくらいしか思いつかない」
「ボ、ボルフ?」
「ボルケーノウルフ。その名の通り、火山付近に生息する魔物だよ。名前が長いから略してボルフ。ローレンス領で見た魔物の仲間さ」
クレアの話を聞きながら勇輝は走る。
その勇輝の肩の近くには式神であるチビ桜が飛行しながら追尾して来ていた。
「流石に火に耐性がある服を持っていても、杖無しだとお邪魔ですよね……」
「そうだね。桜の腕は知ってるけど、今回は騎士たちを守る立場だから。申し訳ないけど、あなたには上空からの情報収集をお願いするわ」
「任せてください!」
チビ桜が勢いよく返事をすると、炎によって照らされた煙が横切る夜空に向けて上昇していく。
それを見届けて、勇輝とクレアは身体強化で一気に加速した。
「桜から貰った札を持っていれば、あの子と思念で話ができるんだっけ? 一応、向こうの隊長さんにも渡して置いたけど、魔道具として高いんじゃない?」
「その点は大丈夫だって、桜が言ってた。一時間もあれば作ることができるって。それよりも問題は意思疎通がとれないことと、起きていることが把握できないこと。それなら、お札の三枚や四枚で済むのはマシな方だ」
数秒と経たずに騎士たちに並ぶと勇輝は魔眼で索敵を開始する。
炎の赤い光に混じり、口先から前半身を紅蓮に、輪郭や後ろ半身、足や尻尾を黒い光として放つ魔物の姿が二十匹ほど見えた。炎の手前だけでその数と考えると、全体数はさらに膨らむだろう。
「俺のガンドなら、林の手前の奴を吹き飛ばせるけど……」
果たして、それが許されるか。騎士たちと共に攻撃射程範囲まで向かえば、後十秒もかからないが、早めに魔物を処理することは悪くない手だ。何せ、魔物たちの一部は既に勇輝たちの接近に気付いているようで、口元から火を吐きながら待ち構えている。
『勇輝さん。隊長さんに聞いてみたら、そちらはそちらの判断で魔物を狩って構わないだって! 責任は全部、隊長である自分が取るから速度優先で、とも言ってる!』
「ひゅー、できた隊長さんだね。勇輝、思いっきりやってやりな。あたしは逃げそうなやつを片っ端から片付けに端から行くからさ!」
遊撃部隊として動くことになった勇輝とクレアだが、さらにそこから別行動になる。クレアが勇輝の視界の端から飛び出して行き、ボルフのいる所へ回り込むようにして接近していく。
「さて、俺も張り切ってやりますか。今更、狼程度にビビるなんて甘い鍛錬を積んじゃいないさ」
『はっ、よく言うぜ。夢の中じゃ、ひいひい言って戦う癖に』
「一人で数百匹に囲まれるのとでは話が違うだろうがっ!」
そう言いながら勇輝は魔力を右手の指先に集め、連続で撃ち放った。
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