迷宮Ⅲ
「とりあえず、無事だったんだ。フランも心配するだろうし、さっさとここから出よう」
フェイの見つめる先には、第六階層と現在の階層の狭間への扉が存在している。そこを潜れば、水晶が置かれた部屋に辿り着き、魔法学園へと戻ることができるはずだ。
ウンディーネが精霊石に戻ったことを確認すると、ユーキはポケットにしまって、一度、ゴーレムに目を向ける。
「どうしたんだ」
「いや、何でこんな強いゴーレムが浅い階層に出てきたのか気になってさ」
マリーが部屋に入った時に呟いていた言葉がユーキの脳裏に蘇る。本来ならば、ここは普通のゴーレムが相手になるはずだったのに、出てきたのはその上位種。ゲームで言うならばレアキャラや色違いなどと呼ばれるだろうが、ここにも同じような仕組みがあるのかと首を傾げる。
人工ダンジョンである以上、確率はゼロとは言えないだろうが、納得がいかずに飛び散った欠片を魔眼で観察しながら扉へと近づく。
「ほら、あれじゃないか? 一度倒した奴がパーティにいると強くなるとか、そういうギミックが隠されててもおかしくないぜ」
「ダンジョンって、そういうのあるのか?」
「極稀に普段とは違うモンスターが出現するとは、色々なダンジョンでも言われる、よ。天然ダンジョンの方が少ないけど、皆無ではない、はず」
「冒険者ギルドに、そういうモンスターの素材を買い取りたいって依頼が張り出されてるのは見たことがあるよ」
女子組のセリフにユーキはフェイへと視線を送ると、フェイもわからなくはないといった感じで頷いた。
「野生にも色が極端に薄かったり、濃かったりする固体がいるだろう。それと同じ類だと言われれば納得するしかないけど、土とサファイアになると僕も疑わしいと言わざるを得ないな」
どちらかというとフェイはユーキ寄りの考えのようで、何かしらの異変があるように感じているらしい。そのせいもあってか、周りを見渡して警戒している様子も見て取れた。
「そうだな。いずれにせよ、まずはここを出てから話そうか」
水晶のある部屋へと繋がる扉を押すと、軋みながら扉が開いていく。目の前には大きな水晶玉が置かれ、その役目を今か今かと待っていた。
「何だ……あれ」
魔眼を開いたままだったユーキは、目の前の水晶が放つ禍々しい光に眉をひそめる。透明感のあるはずの水晶は濁り、紫に近い黒い煙をその中に溜め込んでいるように見えた。黒雲の中に怪しい稲光が奔るように、時折、強い光が煌めく。
「さぁ、さっさと帰って休もう。僕としては早く騎士団の訓練に戻りたいんだ」
「因みに、これはどうやって使うんだ?」
「触って、魔力を流すだけだよ。最初は浮遊感とかに慣れなくて、気持ち悪くなる人もいるけど怖がらなくて大丈夫」
浮遊感という言葉に、ユーキの体が固まる。
「あ、あのー。浮遊感って、もしかして、落ちて体が浮くって感覚? それとも、体が地面から持ち上げられるって感覚?」
「やだなー、ユーキ。落ちる方に決まってんじゃん。面白いぜー。箒で飛ぶ練習中に落ちかけたことあるけど、あれよりは全然マシだな」
マリーの言葉にユーキが思わず後ずさる。それをマリーとアイリスが見逃すはずがなかった。
「おやー、もしかして、ユーキの旦那。もしかして、落ちるのが怖い、とか?」
「とかー?」
すかさず後ろへ回り込んだマリーとアイリスがユーキの背中と腰を押し始める。それに慌てたユーキではあったが、時すでに遅し。五層のボスも倒したことで、ユーキとフェイ以外は完全に油断しきっていた。
「お、おい、本当に怒るからな」
「まぁまぁ」
「まぁまぁ、じゃないんだって、水晶の様子が――――」
「大丈夫だよ。ユーキさん。ほら、こうしてみんなで行けば」
サクラがユーキの手を取るとおもむろに水晶へと手を伸ばした。その手から魔力が水晶へと流れ、中にある黒い靄へと到達した瞬間、ユーキの視界が暗黒に覆われた。
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