樹木選定Ⅶ
さらに押し寄せて来る魔物の群れに騎士たちは、剣と鎧に包まれた体を武器にして跳ね飛ばしていく。
空中を舞ったその一部の魔物の中には地面に着く前に絶命している者もいた。
「今回のは、脆いな。代わりに数が多いのが難点だが……これなら、問題なく処理できそうだ」
騎士が安堵の声を漏らしながら、また一体の魔物を殴り飛ばす。それを勇輝は即座に切り裂いて茂みに視線を移した。後に続く敵の数はそろそろ打ち止めのようで、およそ三十体に届くかどうかと言ったところだった。
傷一つ付くことなく終わりそうな戦いに、勇輝は逆に不安感を覚えながらも、次に跳ね飛ばされてきた魔物に止めを刺していく。
「――っと、流石にこっちに襲い掛かるくらいの知能はあったか」
唐突に、騎士ではなく勇輝の方へと向きを変えて駆けて来る個体が三体。いずれも、狼頭のゴブリンで棍棒を握っている。
いくらゴブリン型の敵とはいえ、数が多いだけで面倒な相手になるのは事実。勇輝は念の為に身体強化へと回す魔力を増やし、息を吸い込んだ。
「ふっ!」
足を踏み出すと共に横一閃。右側の魔物の腹を切り裂いて背後に抜ける。
残った二体がすぐに勇輝へと振り返るが、仲間の体が邪魔で最初の一歩にわずかな隙が生まれた。刀を翻し、手前の魔物を袈裟懸けに切り伏せる。そのままの勢いで距離を詰めると、その背後にいた魔物を斬り上げてしまう。
「遅いな。狼頭になって重心が高くなったせいか? 狼が三十匹来る方がまだ怖かったな。……次はゴブリン頭の狼とかか?」
想像するだけに気持ちが悪いし、口の形からして噛みつきの届く範囲が明らかに短い。実質的な攻撃力はひっかきか体当たりくらいが限界だろう。
ほぼ全滅しかけた魔物の群れを前に、勇輝は軽く血振りして鞘に心刀を納めた。
最後の数体は勇輝やクレアの手によるものではなく、騎士たちの剣によって行われた。騎士たちもまた剣を振って血を落とすと、鞘へと納める。騎士の一人は煙玉を取り出すと、勇輝たちに先へ行くように促した。
「これを使っておけば、城壁の者に知らせが行きます。こいつらの回収をしてくれるので、処理はそちらに任せましょう」
「戦闘中と勘違いされないですか?」
「その時はその時ですが、こちらの煙玉は少し配合を変えて色がついています。青い煙玉なので、間違えられることはないかと」
「そう。それなら大丈夫です。この後に血の匂いを嗅いだ獣型の魔物に取り囲まれるのだけは避けたいですから」
クレアの心配した様子に騎士は笑顔で答える。この領地ではこの領地なりの対応の仕方があるようだ。
クレアもそれで納得したのか、生活魔法で剣に着いた血を落としていく。クレア以外は武器に微量の血が付着したままなので、果たして意味があるかは疑問だが。
「では、先に進みましょう。あと数百メートルもいかない内に目的の場所に到着します」
先導していた騎士が何事も無かったかのように進み始める。そんな中、勇輝は倒れ伏した魔物の群れを魔眼で一瞥した。
(黒い光だけじゃない。何か、首の辺りに境界線がある?)
同じ黒い光のように見えるが、首には継ぎ目のように濃淡が分かれていた。
本当に元々は違う魔物を切断して首を挿げ替えたのではないかという想像が勇輝の脳裏を過ぎる。
「勇輝さん。どうしたの? みんな行っちゃうよ?」
「あぁ、すぐ行くよ」
勇輝は魔眼を閉じて、桜の方へと駆けて行く。
「あはは。私の出番は、あんまりなかったね」
「下手に魔法を使うと樹木を傷つけかねなかったし、桜の本領発揮できる場面じゃなかっただけだ。それに万が一の時に対応できる人がいるってだけで心強いから、十分に役目は果たせているよ」
「そ、それなら良いんだけど……」
桜は安心した表情を浮かべ、正面を向く。
勇気もまた同じように進行方向を見ると、少しだけ開けた場所が見えた。地面には背丈の低い草しか生えておらず、その十数メートル先には、また新種の樹木が植わっていた。
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