樹木選定Ⅰ
勇輝たち四人に加え、シルベスター伯爵領の騎士六名の計十名で杖の素材となる樹木の選定に向かうこととなった。
「でも、杖の素材になるのは木材であればなんでも良いんだろうけど、本人と相性がいいかどうかは、どうやって判別するんだ?」
「杖だと魔法を使ってみるとか、魔力を流してみるだけで良かったけど……」
困った様子で桜がクレアに視線を向けると、彼女もまたメリッサへと顔を向けた。
「私も専門ではありませんので聞きかじった情報になりますが、聞くところによれば、葉や木の枝の先を取り、そこに魔力を流すと聞いたことがあります。尤も、それは本人との相性というより、魔力を流すのに向いている種か、部位かといった判断に使われるようです」
ここに来て一つの問題点にぶつかる。シルベスター伯爵からは、「気にすることは無い」と言われてそのまま来たが、選ぶための基準がどこにもない。不安そうにしていると、騎士たちの一人が進み出た。
「ご安心ください。当方では木々の管理をするにあたり、それに類する専門的知識を学んでおります。即ち、杖に加工するための知識も持ち合わせておりますので、心配はご無用かと」
「え、騎士をしながら、別の職業の訓練もされているんですか?」
「はい。当方は代々、トーマス家に伝わる魔法を活かすべく、様々な職業に関する知識――特に素材となり得る物を調査する能力を磨くようにしております」
木材、石材、鉱石、金属。その他諸々、加工できる物であれば可能な限り知識を蓄える。そして、新たに作り出した物体を調査し、それに適した品を錬金術師たちへと供給するのだとか。
言い換えれば、この領地は国の最先端の素材開発特区とも言える。
(そんなスゴイところの素材を、他国の人間にさらっと渡せるとか、どんだけ余裕があるんだ? 金貨を溶かした時に、死刑にする勢いでやってきた人が、そういう素材や技術の大切さをわかっていないはずがないと思うんだけどなぁ)
何かしらの裏があるようには思えないので、本当に素で人が良いのかもしれない。それはそれで心配になる勇輝ではある。
そんなことを考えていると、先導していた騎士が立ち止まって振り返った。
「まずは、正面の木をご紹介しましょう。ストロベリーツリーとウィンタースイートの合種です」
紹介された樹木の高さは五メートルに届かない程度。冬でも黄色味がかかった白い花を咲かせており、見ていて華やかさを感じさせる樹木だった。
「ウィンタースイート……蝋梅の木ですね。早咲きの花の一つで有名ですけど、蓮華帝国の樹木ですよね?」
「はい。隣国の木ではありますが、ファンメル王国の一部の山地にも自生しておりまして、そこから持って来た物を掛け合わせております。失礼ながら言之葉嬢の魔法学園での魔法特性を鑑みると、こちらの木に適性があると考察しました」
騎士の発言に桜は目を丸くする。ただ樹木を案内するだけでなく、魔法学園で使用した魔法の情報が伝わっていることに驚きを隠せずにいるようだ。
「言之葉嬢の得意系統の魔法は土属性。特に顕著なのは、魔力を過剰に流入させて、一撃の威力を通常の数倍から十数倍に跳ね上げることがあるとか。この木の特性は、『魔法の威力増強』と『流入魔力のスムーズさ』です。今回、杖が折れた原因でもあることから、特に後者は適しているかと……」
そう告げた騎士は、樹木に近付くと一枚の葉を丁寧に千切って、桜へと手渡した。
戸惑う桜に騎士は一言。
「魔力を流してみてください。相性は恐らく、あなた自身が一番わかるはずです」
「わ、わかりました」
桜は葉を人差し指と親指で摘まみ、言われた通りに魔力を流し始める。その様子を勇輝は魔眼を開いて見守った。
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