迷宮Ⅱ
仮称・サファイアゴーレムの核が砕け散ると、全員が安堵の息を漏らす。
核は背面側も胸部側も貫かれ、残っているのは首側の一部のみだった。それでも魔力は相当残っているらしく、ユーキの目にはサファイアよりも薄い天色のオーラが見えていた。ユーキはフェイと共に警戒しながら近づくと、胸ポケットを開けて取り出した精霊石に尋ねる。
「このゴーレムの核って使えたりしないかな?」
しばし悩むように薄く輝きを保っていたと思いきや、いきなり精霊石が何度も強い光を点滅させはじめた。
「え? なに? これでいいってこと?」
慌ててユーキは精霊石をゴーレムの砕けた残りの核へと近づけると、核から放たれていた輝きが急にいくつかの光る球となって精霊石へと集まり始めた。暗闇に光る蛍が集まってくる幻想的な世界に見惚れていると同じように近づいてきたマリーから声がかかる。
「精霊石を出してるってことは、ゴーレムの核か何かが使えそうってことでいいのか?」
「わからない。でも、こんなに強い反応をしているってことはたぶんそうなんだと思う」
「どんな反応?」
アイリスの疑問にユーキは一瞬我に返った。単一属性の魔力だからとみんな見えていると思っていたが、この明滅はユーキにしか見えていないようだった。
ガンドについてはみんな知っているが、ユーキの魔眼に関しては、ほとんど話をしたことがない。唯一、サクラだけが正式に魔眼を持っていることを知っているが、その能力は知らないはずだ。それもそのはず。魔眼の所有者本人ですら、未だにどのような能力か把握していないのだから知りようがないのだ。
「そ、そうだな。自分の体の中の魔力を集める感じとは逆かな。外から吸い込んでいるような」
「ふーん」
慌ててユーキは魔力の感覚へと話をすり替える。ここで魔力が見えるなんてことがばれたら、面倒なことこの上ない。以前に、マリーやアイリスとも確認した時には、オドやマナは見えないが、魔法を発動できる状態、オドとマナが混ざって励起している状態や単一の魔力がある時だけ知覚できると言っていたはずだ。
ユーキはわからないがマナやオドが見えれば魔法使いとして様々な活用法があることは容易に想像できる。それで何らかの面倒ごとに巻き込まれるのは御免被りたい。
とにかく、ユーキとしては世界を様々な色で判別できる程度にしか理解していない。せめて、もっと情報があればと悔やむが言っても埒が明かない。
そうこうしている内に精霊石が強い輝きを放ち始める。
「……あー、やっと元に戻れました」
「ウンディーネさん。姿を見せて大丈夫なんですか?」
「さっきまでは、そんな余裕ありませんでしたけど、これだけ魔力に余裕があれば大丈夫です」
サクラが思わず駆け寄ると、彼女は笑顔で自分の手を閉じたり開いたりして感触を確かめる。その様子をフェイが呆然と見つめていた。
「おい、どうしたんだ」
「いや、僕は彼女と会うのが初めてだからね。本物の精霊に出会えるだけでもすごいのに、一緒に行動しているだなんて、君は一体何なんだ?」
「それがわかれば苦労はしないよ」
軽口をたたいてフェイへと返事をするが、ユーキの手の中に未だ吸い込まれ続けている魔力に視線を奪われる。
サファイアでできているとはいえゴーレムだ。魔力を分類するなら土が一番有り得そうなのにも拘わらず、「なぜウンディーネは復活できたのだろうか」と疑問が浮かぶ。
それはアイリスも同じだったようで、サクラの隣に来てウンディーネに問いかけていた。
「あぁ、それは体を動かすために水の魔力を使っているからですね。サファイアだから少し想像しづらいかもしれませんが、乾いた土を想像してください。動かそうとするとボロボロと崩れるイメージがありませんか? 逆に湿っている土ならば泥団子を作る要領で形を変形できますよね」
「なるほど、土も水も冷たい性質で共通しているから後は水の流動性にどれだけ傾けるかが大切なのか」
後ろで聞いていたマリーも納得していた。
「サファイアの場合、鉱物ですから余計に動かしづらいですし、水の魔力も相当な量が必要だったんでしょうね。おかげで私も以前より大分楽になりました」
そう言って空中にいくつか水の玉を作って見せる。それぞれの大きさ、動かす速度、方向、すべてをバラバラに、しかし、完璧に制御して見せる姿には感嘆の声を上げるしかない。
「そこまでにしておこう。また、いつ魔力が枯渇するかもわからないんだし」
「あんな竜の息吹が貯まっているところに、いきなり連れていかれたら、どんな水の精霊も蒸発します」
ほっぺたを膨らましてユーキから顔を逸らす。どうやら、ロジャー製のコートをもってしても、竜の息吹とやらの残った魔力は防ぎ切れていなかったようだ。
「まぁまぁ、とりあえず助かったし、結果良ければすべてよしってことでいいじゃん。思いの外、深部まで潜らずにも済んだしさ」
「そうだね。最低でもあと十階くらいは降りなきゃいけないのかと思ってたから、ほっとしたよ」
苦笑いで応えるサクラにフェイも横で頷いていた。本来は卒業までに二十階まで潜るのが目標なのだから、ここから先はかなりきついものなのだと覚悟していたユーキたちからすれば拍子抜けだ。
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