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素材を求めてⅧ

 勇輝と桜の目的は杖の素材の確保。伯爵夫人が言うには、その購入代金の心配をする必要はないという。



「あの人、ああ見えて、実験好きなのよ。ロジャーさんにも時々、素材を無償で提供しているくらいだから。代わりにロジャーさんからもいろいろと提供をしてもらってるみたいだけど」


「なるほど、では、素材に関しては選ぶだけということですね」


「えぇ、ただ、もしよろしければ、あなたたちと一緒に依頼に取り組んでいただけると、成功率も上がるでしょうね。それに、その方がそちらのお二人も気兼ねなく済むでしょう」



 確かに伯爵夫人の言う通り、世界を探してもこの領地にしかない樹木を素材として手に入れるのに、何の代価も無しというのは気が引ける。


 もしも手伝えるならば、元々そうするつもりだった勇輝と桜は、どちらからともなく頷き返した。



「では、その依頼内容を教えていただいてもよろしいですか? 私たちも詳しい内容は伺っていないのです」


「……最近、領地にあまり見かけない魔物が出没するようになりまして、その調査・討伐をお願いしたいと思っています」


「見かけない魔物、ですか?」



 クレアは眉を顰める。


 見かけない魔物ということは、その出所はいくつか想定されるものがある。簡単なものでは、他の領地から流れて来た魔物。最悪の場合は、どこかでダンジョンの氾濫(オーバーフロー)が起きて魔物が流出したことだろう。


 しかし、仮にも目の前にいるのは伯爵夫人だ。当然、その可能性には彼女も思い至っているだろう。



「この近くにはダンジョンも存在しないし、ここ数ヶ月で氾濫を起こしたのは、一カ所のみ。それはあなたたちの方がよくご存じでしょう?」



 勇輝の脳裏に浮かぶのは、クレアの両親たちが治めるローレンス領近くでの氾濫だ。


 隣国の蓮華帝国が人為的に起こした大規模魔術の影響で、狼型の魔物が大群となって押し寄せて来た挙句、街の中でも出現するようになってしまった。何とか対処できたものの、もう一度、アレを乗り越えろと言われたら全力で拒否するくらいにはトラウマになっている。


「つまり、何者かが手引きしている可能性があると?」


「それだけではありません。夫の魔法は二つの同種の物質を一つにするというトーマス家相伝の魔法です。このまま放っておけば大変なことになります」


「……申し訳ありません。ここで何故、シルベスター伯爵の用いる魔法が関係するのかがわからないのですが」



 伯爵夫人は目の前に並べられた様々な菓子の中から幾つかを目の前の皿に取ると、おもむろにその内の一つを取り上げた。


 見た目からしてマカロンのような菓子を二つに割ると、スコーンらしき物体の上に置く。



「二つ。或いは三つの魔物の特徴が融合した状態の魔物――いわゆるキマイラ状の魔物が出現しています」



 キマイラという言葉は魔法に疎い勇輝でも聞いたことがある言葉だった。


 前半身がライオン、後半身が山羊、尻尾は蛇という異なる生物の特徴を持つ怪物の名だ。



「コボルトの頭を持つゴブリン、双頭のウルフの二種類が確認されています」


「個体数は?」


「見かけただけで数十。討伐して体を回収しましたが、王都へ送る前にダメになってしまいました」



 仮に送っていても、どれだけの人がその魔物の存在を信じてくれるのか。シルベスター領のギルド員ですら、微妙な表情を浮かべたらしく、せめて信用できる冒険者の証言が必要ということになったらしい。



「わかりました。つまり、元宮廷魔術師の母を持つ私や彼のように高ランクの冒険者の証言があれば、信用してもらえるだろうということですね」


「理解が早くて何よりだわ。その魔物はこちらで育てている樹木の近くにも姿を現すことがあるの。だから、木々を見て回る際にこちらの騎士も一緒に回らせて、場合によってはそこで討伐してもらうことになりそうね」


「わかりました。二人も、それで大丈夫?」



 クレアの問いかけに、勇輝と桜は力強く頷いた。



「それは良かった。じゃあ、まずはお菓子を食べてもらわないとね。ほら、そっちのお嬢さんもお座りなさいな」


「本来であればお断りするのが使用人の常識なのでしょうが、伯爵夫人のおもてなしを無下にするのも失礼ですね。お言葉に甘えさせていただきますが、ご容赦を」


「良いのよ。私一人で寂しいから、この子たちも時々一緒にお茶菓子を食べているのだもの。気にしないでちょうだい」



 一瞬、執事が驚愕の視線をメイドたちに向けていた。当のメイドたちは、その視線を避けるかのように顔をわずかにそらしている。


 どうやら、この伯爵夫人もクレアの両親ほどではないが、自由気ままなところがあるらしい。勇輝は目の前に出されたお菓子を摘まみながら、他人事のように大変そうだと心の中で呟いた。

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