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素材を求めてⅥ

 新種の樹木が見え始めてからすぐに、勇輝たちが乗った馬車はシルベスター伯爵が統治する街の中へと入ることができた。


 その街も例に漏れず、魔物や野盗などの対策の為に街を囲う外壁が聳え立っている。ただ、その材質は見た目からして魔法に抵抗できるミスリル原石ではない。ただのそこら辺にあるような石と同じ灰色で、何かの魔法が直撃したら吹き飛んで砕けるのではないかと思えてしまう。



(何だよ、アレ。ミスリル原石ほどじゃないけど、異様な光を発しているぞ……)



 勇輝は魔眼で確認すると、石が尋常ではない光を放っているように見えた。不思議に思って見つめていると、クレアがその視線に気付いたのか、口を開く。



「あぁ、ここの外壁も城壁もミスリル原石は一片たりとも使っていないらしい。何でも山の中の大岩を切り出して、それを魔法で強化してるんだとか。その癖にやたらと硬いって、噂で聞いたことがあるよ」


「もしかして、それも家に伝わる魔法とか?」


「そこまでは明らかにされていないけど、まぁ、間違いなくその類だと思うよ。そうじゃなければ、他の領地の貴族だってやっているだろうからね」



 ただの石がミスリル原石の足元に及ぶような魔法ならば相当なものだ。むしろ、王家が危険だと判断する可能性は十分にある。



(その為の宮廷魔術師の座か? 代々、その役職に就かせる代わりに、何かやらかしたら囲んで叩けるように……とか)



 政治では時に血生臭いことも起こりうる。偶然、目にしたり耳にしたりしていないだけで、水面下ではそのような交渉もあったと、素人の勇輝でも容易に想像がついてしまった。


 ますます伯爵夫人と顔を合わせるのが恐ろしくなってしまった勇輝だが、残酷にも御者台からは到着の合図が出される。



「さて、勇輝。覚悟しておりなよ。なーに、困ったら口を閉じておくのが正解さ。しゃべりすぎる口より、しゃべりすぎない口の方が価値があるからね」


「悪い。俺が苦手なやつだ」


「そりゃあ、良かった。桜、変なことを口走りそうだったら、お尻をつねってやりなよ」



 いつか見た悪戯をする時のような笑みを浮かべながら、クレアが開いた扉から降りるよう促す。勇輝は頬を引き攣らせながら、先に降りたメリッサに続く。頬を冷たい風が撫でると同時に、久方振りの青天から降り注ぐ太陽光に目を細める。


 こんな日に縁側で昼寝出来たら最高なのに、などとのんきなことを考えていると隣に桜が降り立った。



「桜は寒くないか?」


「うん。ほら、勇輝さんがくれたアレで作ってあるから、多分、そのコートと同じくらい温かいと思う」



 桜の着ているスカートは、まるで学生服のようだが、その色は真っ赤に染まっている。その素材は火鼠の皮衣と言われるもので、竹取物語に出て来る品と同じ名を冠している。火の魔法を受けても一定ランク以下の威力なら無効化できる優れもので、普段使いではヒラヒラして風が通り抜けるにも拘らず、足を寒さから守ってくれる。



「そうか、それはよかった。でも、手とかは流石に寒いよな? 全身に効果はあるって言っても、遠いところは効果が弱まるし……」



 一瞬、悩んだ後、勇輝は桜に手を差し出した。



「本当なら降りるときにするべきだったな」


「……勇輝さん。いつから、そういうの上手くなったの?」


「他の女性の為じゃないことは確かだよ」



 想定外の返しだったようで、桜は顔を紅潮させて目を逸らす。尤も、勇輝の差し出した手はしっかりと握りしめているが。



「あらあら、どんな子たちが来るかと思っていたら、ずいぶんと可愛らしいカップルだこと!」



 唐突に聞こえて来た声に驚いて、顔を向ける。すると、そこには執事とメイドを引き連れて歩いて来た女性がいた。女性は白髪交じりの金髪を頭の上で団子にしてまとめており、柔和という言葉をそのまま顔に表したかのような笑みを浮かべている。

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