後処理Ⅳ
王城からの騎士団と魔術師ギルドから派遣された職員による合同の実況見分が開始された。
早く寮へと戻りたかった勇輝だが、目撃者どころかがっつり現場で奮闘していたため、冒険者ギルドの一室で話をすることになってしまった。
「――しかし、困ったな。メルクという男だが、冒険者ギルドの職員も君たちも証言はしてくれるのに、肝心の本人がいないんだ」
「えっ!? さっきまで路地で一緒に生きた銀を止めようとしていたんですよ?」
魔術師ギルドの職員のため息交じりの呟きに、勇輝は目を丸くする。
桜の付き添いをしていたので後半の聞き取りとなったのだが、一番最前線にいたということもあり、ついに勇輝の出番が回って来ていた。そして、あったことを洗いざらい話した結果がこれだ。
――肝心の依頼主が行方不明。
冒険者ギルドのギルドカードの情報などを確認しても間違いはないとなっているのだが、メルクという男自身が忽然と姿を消していた。
「我々も君を疑っているつもりはない。事実、金貨を溶かした形跡もあるし、証言も一致している。加えて、真偽を確認するための魔道具にも反応がない。君たち全員が洗脳や幻覚で騙されているか、その男が理由があって姿を晦ましたか、だな」
「……もし、そのどちらかだというならば、後者だと思います」
「我々もそう思っている。そこで、だ。何故、彼が逃走したかに心当たりは?」
職員の問いかけに勇輝は思案する。
真っ先に浮かぶのは、年末の祭典の最中に、ここまで大規模な騒ぎを起こしたことだろう。確認はできていないが、大勢の人が逃げる過程で怪我をしたかもしれないし、勇輝たちが抑えているように見えてどこかで生きた銀の魔法攻撃を喰らっていたかもしれない。
後は金貨を溶かして使用したことも挙げられる。国が発行している貨幣を意図的に破壊したり、偽造したりする行為は罪になる。特に後者はかなりの重罪だ。
当然、それを提案し金貨を提供した勇輝たちにも、その罪は問われることになる。それも覚悟で話をした勇輝だったが、返って来た言葉は意外なものだった。
「金貨十数枚で大勢が救えるなら安いもんだ。こんなことで宮廷魔術師が出てくるわけないだろう。出て来たとしても、事情を話せばわかってくれるさ」
職員は大したことではないと流してしまった。それよりも彼らの関心はメルクという男にあるらしい。
「やはり、自分のやらかした事件の大きさに焦って逃げ出した線が濃厚か?」
「うーん。事件に対応している時はけっこう冷静な感じでしたし、そこまで思い詰めていたようには見えなかったですよ?」
「ふむ、となると別の線から捜査してみるか。とりあえず、錬金術師の登録者を調べてもらっていいかな?」
後ろの控えていた冒険者ギルドの職員に魔術師ギルドの職員が依頼をすると、すぐに部屋の外へと出て行ってしまった。部屋の中には勇輝とその横に目を覚まさない桜が横たえられ、正面には職員が顔をしかめて座っている。
少しばかり気まずい空気になり始めた時、急に扉が開け放たれた。
「――ここに金貨を溶かした奴がいるというのは本当か!?」
心臓が大きく跳ねた。思わず扉の方を振り返ると、白髪混じりの男が飛び込んできていた。大きな杖を片手に茶色の瞳が室内にいる三人を一瞥した。
「し、シルベスター伯爵。なぜ、このようなところに!?」
「知れたこと。此度の騒動で金貨を溶かして対応したなどという話を耳にしたからだ。硬貨損壊の罪は私の管轄。国王様といえども、そう易々とは止められんぞ!」
職員の眼前に杖を突きつけるようにして迫る伯爵と呼ばれた男。その気迫は自身に向けられておらずとも、勇輝の姿勢を正させるほどの勢いがあった。
職員では埒が明かないと思ったのか、伯爵の視線が勇輝へと移る。
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