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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第28巻 愚者の斧と見掛け倒しの斧

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後処理Ⅲ

 無事に危機を脱したことを理解し、勇輝は全身から力が抜けそうになる。

 魔眼を閉じ、いつの間にか背後から抱きしめる形になっていた桜の顔を覗き込んだ。


「桜。魔力の方は大丈夫か?」

「う、うん。ちょっと、腕が痛んで、体も怠いけど……大丈夫。ポーションで回復すれば何とかなる、と思う。ただ、ネックレスの魔力は使い切っちゃったみたい」


 そう言ってポーションの入った瓶を取り出す桜だったが、その手は震えていた。普段、余った魔力を溜め込む宝石を身に着けている桜だったが、その中身は既に空らしい。

 勇輝は桜の握っていた杖を持ち、背中を支える。すると桜はゆっくりではあるが、ポーションを飲み始めた。日ノ本国からファンメル王国に戻って来るにあたって、使用するポーションを中級ポーションへと切り替えたが、それでも味は依然として苦く、桜は顔をしかめる。飲み干した後も、両目をギュッと瞑って苦みを耐えているようだった。

 何とか目を開けた桜に、勇輝は杖を差し出して、持っている瓶と交換する。


「ありがとう。少しゆっくりすれば、すぐに楽になるはず――」


 ――ピシッ!


 唐突に乾いた音が響き渡る。何事かと思うまでもなく、その音の出所は桜の握っていた杖だった。


「――嘘……」


 目の前で起こったことが信じられなかったのだろう。数秒間、固まったままだった桜の口から零れた言葉は、その一言だけだった。

 桜の持っている杖の半ばから先が真っ二つに裂けていた。先の方はささくれ立ち、修理しようという気すら起きないほどの破損具合。持ち主である桜からすれば、呆然自失という他ないだろう。


「うん? 何じゃ、杖が砕けたか。そりゃ、一般で出回る杖で、アレを魔力制御でどうにかするくらいの魔力量を放出したんだ。杖の方が耐えられないのは当然だろう。むしろ、この瞬間までよく形を保っていたと言ってもいい。――主思いの良い杖だったな」


 ロジャーが勇輝の後ろから杖を覗き込み、大きく頷く。桜とは対照的に笑顔で大きく頷く姿があった。

 物が壊れることは仕方がないことだ。しかし、大切に使ってきた物が壊れたことを受け入れるには時間がかかる。桜を褒める言葉はあれど、今はそっとしておくべきだろうと勇輝は考えた。

 そんな中、桜はゆっくりと白い指を杖に這わせると小さく呟いた。


「……今まで、ありがとう。私や勇輝さん、みんなを守ってくれて」

「桜……」


 杖を抱え込んだ桜の横顔を見て、何も言えなくなった勇輝は彼女を抱えたまま視線を彷徨わせた挙句、ロジャーへと顔を向けた。


「別によくあることだ。本人に合った杖を選ばないとこういうことも起こる。尤も、彼女の場合は、本人の急激な成長が大きな要因だろうから、杖の売り手でも見極められなかっただろう。その杖を持って、元々の店に相談しに連れて行ってやると良い。もし貴重な素材が必要なら手助けしてやらんことも無いぞ。小僧らにはいろいろと楽しませてもらっているからな」


 勇輝の背中を強く叩き、ロジャーは笑う。

 ロジャーに勇輝が関わったのは大きく二つ。一つは勇輝が彼の作った試作型コートの試験運用者であったこと。もう一つは魔力枯渇に陥ったフランを助ける為にロジャーが教えてくれた洞窟に向かったことだ。

 前者はともかく、後者はロジャーに助言を貰っただけのことだ。尤も、その洞窟の先にはドラゴンがいたので、どちらかというと勇輝たちからすれば、「とんでもないところに案内してくれたな」と怒り心頭になってもおかしくない。

 結果だけ見れば、ロジャーの想像を上回る形で助ける為のアイテムである大量の魔力を含んだルビーを手に入れてきたことになるので、彼の評価が高いのは理解できた。


「じゃあ、一段落したら杖の店にでも行く?」

「うん。でも、今日は少し辛いかも。それに、みんなも疲れていると思うから」

「そうだな。じゃあ、今日は帰ってゆっくりしよう。みんなには、俺から言っておくよ」


 勇輝の言葉に安心したのか、桜はそのまま勇輝に体重を預けると寝息を立て始めた。

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