完全破壊Ⅶ
金色の光は生きた銀へと取り込まれていた。しかし、メルクの籠めた停止命令の魔法に抵抗しているようで、外へ外へと押し出されていく。
表面まで浮かび上がるその光だが、生きた銀本体から出ていくことは無い。勇輝の推測した通り、水銀に溶けてしまっている。その為、排除したくてもできない状態なのだろう。
そうしている内に、また矢が何本も刺さって行く。そして、その分だけ金色の光が占める割合が増える。
「(……よし、このまま停止するなら、それでよし。それでも抵抗するようなら――)」
メルクに宣言したように生きた銀を破壊する。
それを実行する準備の為、勇輝は身体強化に回す魔力を一気に増やす。
――魔力制御・最大解放。
体内を巡る魔力量の制限を外し、膨大な魔力で魔法の威力や効果を最大限に発揮する究極技法。それを以て、勇輝は生きた銀を無効化する手段を揃えた。
既に勇輝の魔眼には、生きた銀が停止命令を拒否することによって「唯一、金色の光に染まっていない場所」を見つけ出している。
(あまり強い威力でガンドを撃つと街の結界を破壊してしまう。だから、必要最小限の威力で何とか出来るように、生きた銀を動かしている魔法の起点を正確に見極めないと……)
さらに矢が刺さるが、そこで生きた銀が火球を再び生成し始めた。途端に止む矢の攻撃。
ガンドで火球を吹き飛ばすか、生きた銀に攻撃を加えて中断させるか。勇輝がわずかに悩んだ瞬間、火球を何かが貫くのが見えた。
「なっ!?」
火球が弾けるばかりか、生きた銀にその物体は突き刺さる。矢ではない。もっと短くて、太い。まるで石のような――
「もしかして、桜か!?」
そこまで考えたところで、勇輝は桜が何をしたのかを悟った。
魔法によって生み出した石礫を金でコーティング。それをそのまま生きた銀へと放ったようだ。しかも、相当な量の金を含んでいるのだろう。今まで矢によって撃ち込まれ、発光していた金色の光の量が急激に増加し始める。
当然、生きた銀は矢を押し出すのと同じように、一刻も早く石礫を体外へ押し出そうとしていた。しかし、なかなか石礫が中から出てくる様子はない。生きた銀も業を煮やしたのか、自らの体を一度いくつかの塊に分割し、また別の場所で一つの球体へと戻り始める。
金色の光は減少はしていないものの、空中に浮かんだ金メッキの石礫が姿を現す。それも束の間、石礫が加速し、生きた銀へと再び突っ込んだ。
『……考えて見れば当たり前の話か。四属性の魔法において、魔力制御で最も操作性が良いのは土。射出ではなく生きた銀に触れさせることだけを考えるなら、あれの方が十分に脅威になるな』
生きた銀が、再度バラバラになんて飛び散り、終結する。そこに今度は矢も一緒に突き刺さった。
青と銀の光が塗りつぶされていくかに見えたが、唐突に輝きが増す。
――――ゾッ!
次の瞬間、銀色の閃光が瞬いた。
桜の操っていただろう石礫が真っ二つに割れ、空中で霧散する。球体から伸びた一部分が薄い板状になり、長い剣のように振り回された結果だった。
続く矢の攻撃も、生きた銀自体にほとんどふれることなく薙ぎ払われる。数メートルから十メートル強まで伸びる銀の斬撃。それは桜や弓使いの攻撃を払いのけ、近くにあった街灯を半ばから切断した。
水路に落ちていった街灯が水飛沫を上げて沈んでいく。
「ここまで、か」
勇輝は静かに立ち上がると、心刀を抜き放つ。
このままでは、いくら物体として生きた銀の中に金が残留しようとも、籠められた魔力や魔法を塗りつぶされてしまう。そして、追加で停止命令を送ることが絶望的な状況だ。こうなってしまえば、街を守るには生きた銀を完全に破壊するしかない。
「弓使いの人や桜のおかげで、アレの核は見切った。あとは一瞬で消し飛ばすだけだ」
勇輝は空中に浮かぶ生きた銀に向けて走り出した。
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