完全破壊Ⅵ
弓使いではなく、その傍らに立つ仲間が鏃を溶けた金に浸け、コーティングを擦る。
「お前は矢で射るのが仕事だ。俺が矢に金を塗るから、体力を温存しておけ!」
弓使いが面食らったように数歩下がり、辺りを見回す。そんな彼の視線の先では盾使いがフランの前へと進み出る。
「万が一の時には、俺の出番だ。安心して攻撃しな、嬢ちゃん」
「ありがとうございます。でも、無理はなさらないでくださいね?」
「ははっ、嬢ちゃんに心配されるようじゃあ、俺もまだまだだな。まぁ、盾構えて突進する以外に取り柄のない男だ。こういう時くらいは格好をつけさせてくれ」
盾の表面を拳で殴りつけ、盾使いは空に浮く生きた銀を見上げる。兜の中に隠れたその表情を窺うことはできないが、きっと怒りが滲み出ているに違いない。
勇輝はそんな弓使いの二人の仲間を見て、今まで彼らが絶えず協力してきたのだと感じとった。
「……いいパーティですね」
「た、ただの腐れ縁なだけだ。有能なのは保証するけどな」
そう言って弓使いは矢筒を降ろすと、弓だけ持って弦を指でなぞる。そのかたわらで、矢筒からどんどん矢が取り出されると、それらが一気に耐熱皿の中へと突っ込まれていく、
「まだ金の量には余裕がある。もし、矢が補充できるなら――」
「わかってる。俺が持って来るから待っててくれ」
すぐに男がメインストリートではなく、路地裏へと走って行く。冒険者ギルドに裏口から入るのか、はたまた武器屋が近くにあるのか。どちらにしても、矢が確保できる場所に心当たりがあるらしい。
「さて、勇輝君だったかな? すぐに金が固まるはずだ。そうしたら、彼が矢を放つ。変化があるかどうかは君の魔眼でわかるはずだ」
「はい。俺はもう一度、屋上に登って観察します。もしも、ダメな時は――最悪、破壊も視野に動くつもりです。できるかどうかはわかりませんが」
「構わないよ。君たちの魔法の威力は、私が思っているよりも高水準にある。上手くいけば術式自体を破壊して、ただの水銀に戻せる可能性もあるはずだ」
メルクの言質は取った。
万が一、金を排除するような動きを見せたら、金の放つ光がない場所をガンドで射抜くつもりだった。勇輝は振り返ると、桜へと視線を送る。
「さく――」
「大丈夫。私は私にできることがありそうだから、そっちをやってみる。フランは盾使いの人が守ってくれてるから」
「……わかった。気を付けてな」
この場において、ほとんど魔力を消費していない桜。生きた銀との相性が悪いというのもあるが、そんな彼女が一番何かできることはないかと不安でいるのは勇輝もわかっていた。
何とか励まそうとした矢先に、何かしらできることを見つけたことに安堵と不安の両方が勇輝の中でせめぎ合う。それでも言葉を絞り出して、勇輝は踵を返した。
今度は自分が狙われても構わない。金の矢が一本でも多く命中することの方が重要だとばかりに勢いよく壁を蹴る。
『おいおい、ダンジョンの中ではガンドの効果が無かっただろうが』
「威力じゃなく、単純に速度が足りなかった。可能なら出来るだけ高速かつ距離が近いところから撃つしかない。――まだ、そうすると決まったわけじゃないけど、十中八九その状況になる!」
屋上へと着地すると同時に勇輝は生きた銀を魔眼で観察する。相変わらず青と銀の光が煌めく中、紅の光が勇輝の方へと集まり始めた。流石に、距離がより近い方を脅威と判断したのか。それともガンドの脅威に気付いているのか。いずれにしても生きた銀は勇輝に標的を変えたらしい。すぐにそれを避けようと体を横に倒し始めた瞬間だった。
唐突に金色の光が生きた銀を下から貫く。今まで何事も無かったかのような動きをしていた生きた銀が初めて痙攣するかのような震えを見せた。すると、さらに二本、三本と矢が続けて刺さっていく。
そんな状態の生きた銀が発する光は――不幸にも勇輝が想像した通りだった。
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