完全破壊Ⅲ
相も変わらず青と銀の光を放つ球体に、勇輝は苛立ちを隠し切れずにいた。それでも自分にできることは観察することだけだと言い聞かせ、メルクから伸びる一筋の光を追い続ける。
爆発の余波で一瞬波打ったかと思えば、綱引きのように強く引っ張られて一直線に。細く千切れそうになったかと思えば、卵でも産みつけるかのように塊らしき何かがラインを駆け抜けていく。
それでも生きた銀は行動を停止しない。断続的に放たれる火球を、それより短い間隔で放つフランの火球が吹き飛ばす。
(――さっきよりも見えやすくなったとは言えるけどダメだ。肝心の生きた銀の起点がどこかがわからない)
下唇を噛み、右手を強く握りしめる。心のどこかで不満や安易な考えが少しずつ湧き出てしまう。
早く誰かが助けに来てくれないのか。ガンドで丸ごと消し飛ばしてしまえないか。多少の被害は仕方がないだろうから逃げてしまえばいいのに――
(いや、それだけは良くない。俺たちに責任があるわけじゃないけど、ここで戦い続けることで助けられる命があるのなら、やる価値はある)
チラリと視界に入った店の中には、不安そうに見上げる人々の姿があった。中には母親に抱かれた赤ん坊や今にも泣きだしそうな子供の姿も見られた。
それを見てしまったら、逃げ出そうなんて思えない。特に勇輝にとっては。
『はっ、そういやこの世界に来る前は教師だったか。それなら、子供を守りたくなるのは職業柄仕方ないな』
(別に子供の命を守りたいから教師になったわけじゃない。お前が俺だっていうなら、それくらいわかってるだろ)
『……あぁ、そうだったな。じゃあ、教師らしく観察眼を発揮してもらおうじゃないか』
(言われなくても、やってやるさ!)
心刀に発破を掛けられ、勇輝はさらに生きた銀を凝視する。そんな中、突如、別の場所から生きた銀へと攻撃が飛んできた。しかもそれは魔法ではなく、一本の矢だった。
「ちっ、当たったけどノーダメかよ。やっぱり、見た目は金属だけど液体っぽいな」
矢の軌道からして、発射地点は冒険者ギルドの入り口辺り。聞こえて来た声からして、先程のリベンジを試みていた冒険者の一人のようだ。剣では届かないからと弓を持ち出したらしい。
魔法だけでなく、剣も弓も使えると考えると、巡り合わせが悪かっただけで腕の立つ冒険者のように勇輝には思えた。
流石に生きた銀の反撃があることを考えて、ギルド内に身を隠してのヒット&アウェイを繰り返しているようで、ランダムに時間差をつけて矢を射かけている。対して、生きた銀は矢のことを意に介した様子はなく、矢が刺さっても飛散すらしない。ゆっくりと矢が抜け落ちて水路へと消えて行く。加えて、冒険者ギルドの方には攻撃は加えずに、フランへと火球を放とうとするばかりだ。
(矢なんて避ける間でもないってか。本当に無敵だな。どうやって、メルクさんの言うことを聞かせれば――)
そこまで考えた勇輝は、ふと「あること」を思い出す。それを利用すれば、簡単に起点を見つけられる可能性があるかもしれない、と。
すぐに勇輝は片腕をコートから抜いて、胸の内ポケットをまさぐる。次に腕が袖から出てくると、そこには金貨が握られていた。
『おいおい、そんな大金を内側の胸のポケットとはいえ入れてんなよ。それで十万円だぞ? 普段、一万円も入れていなかったような奴が、よくそんなものを持ち歩けたな』
(財布が無かったり、落としたりした時の緊急用だよ。それより、こいつを利用すれば起点が見えるかもしれない)
勇輝は笑みを浮かべて、魔眼で金貨を見る。金属に関してはおおむね銀や鼠色の光で認識することが多い。しかし、例外はいくつかある。金もその内の一つだった。金貨は肉眼で見るのと同じような「黄金の輝き」を放っていた。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




