完全破壊Ⅰ
路地を回り込み、建物数軒分の反対側に出ることで、生きた銀の背面側へと回る。尤も、球体の生きた銀に前や後ろという概念があるかは不明だが。
爆発音が断続的に響いていることから、フランが足止めに成功しているのだろう。そんな中、建物の屋上へと跳び移ろうとして、勇輝は通路の先に違和感を抱いた。
(向こう側が……微かに青い?)
生きた銀の放つ光と同じ色が見えて、警戒をする。しかし、勇輝へと向かってくる様子も無ければ攻撃してくる様子もない。
「……いや、まずはアレを止めるのが先だよな」
身体強化を施し、壁を蹴って屋上へと向かう勇輝。以前の自分からは考えられない行動に頭の片隅で苦笑いしつつ、生きた銀を視界に納める。紅蓮の炎がぶつかり合い爆発を起こす。フランの火球が先程見たガトリングのような連射ではなく、拳銃で狙いを定めた連発のように間を開けて放たれていた。
生きた銀が火球を放とうとしても、ちょうどフランの火球がそれを潰す形で激突する。
『どうやら、魔法を使うことは出来ても、その使い方まではレパートリーが少ないと見た。普通の奴なら、単発じゃなくて連発にしたり、同時に放ったりして対応するはずだ』
「魔法に当たっても効果は無いし、むしろ魔力の補充ができるからな。魔力が尽きたところを狩る考え方だと思えば、十分に賢いだろ。メリットしかないんだから」
『そうだな。だから、弱点を見つけたらチャンスは一度だ。失敗したらどんな対応をしてくるか分かったものじゃない』
心刀の警告に勇輝は無言で頷く。そして、魔眼で下から伸びて来るメルクの魔力らしき光を捉えようと集中する。目を凝らすと、立ち並ぶ店の背景の中に、朝露に濡れた蜘蛛の糸のように光を放つ線が一本見える。所々が光を放ち、またある場所は背景に溶け込んで見えない。
勇輝は生きた銀からの攻撃が自分に向けられないかを注意しながら、屋上をゆっくりと背を低くして近付いていく。幸いにもメインストリート側に看板があったので、そこを背にして覗き込む。いつでもガンドを放てるようにして観察する姿は、さながら刑事ドラマに出て来る突入シーンにそっくりだ。
「ここまで近付いても見えないか……」
『隣の建物なら行けるだろ』
「流石に近付き過ぎたらバレるって」
『そんなことを言ってる場合か? お前なら火球の数発は撃ち落とせるんだ。フランに負担を掛けるよりは、その方が気持ちも楽になるぞ』
「こんの、俺の考えていることをよくわかってるなぁ。この野郎っ!」
勇輝は舌打ちをすると看板から背を離し、床に背を付けて曇天を見上げた。
隣の屋上には、下から上がって来た階段から出るための場所が一カ所だけ小屋のように建っている。そこを影にして屋上を渡れば生きた銀に見つかることは無い。だが、その場所は勇輝がいる場所とは真逆の路地裏側だ。そこまで立って移動すれば見つかる可能性が高い。
その姿勢のまま息を吸い込んで覚悟を決めると、足を屋上の縁に着けて膝を曲げた。
「ふっ!」
思いきり足で縁を蹴飛ばし、床を滑って反対側まで移動する。背中が何度か空中に浮く感覚と、小石が何度かめり込んだり、摩擦による熱を感じたりする中、何とか移動に成功する。顔だけゆっくりと起こし、生きた銀が見えないことを確認すると、隣の屋上へと飛び移った。
『おいおい、錬金術の爺さんから貰ったコート。それ、防御機構とかが最低限しかないんだろうが、破れてないよな?』
「今はそれどころじゃない。破けてたら、その時はその時だ」
背中から感じる諸々の痛みを無視して、勇輝は小屋上の建物から様子を窺う。相変わらず火球の応酬が繰り返される中、先程よりも位置が遠いので、当然ながらメルクとの繋がりは見えない。看板も無いので近づいたところで身を隠せるかどうかは屋上の縁の高さにかかっている。
「さっきと同じ方法なら近付けるか……」
一か八か、うつ伏せで同じようにメインストリート側へと勇輝は移動を試みる。
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