完全回収Ⅷ
空中で火球とガンドがぶつかり、爆風が吹き荒れる。ガンドに籠めた魔力が多かったせいか、幸運にも相殺地点から下側への爆風は控えめであった。
(何だ? 何が水銀を操る元になってるんだ?)
勇輝は魔眼で火球も含め、何か手がかりはないかを探る。
飛び散る紅。その向こうに燦然と輝く青と白。そこに勇輝が見つけられる違いはなく、ただただ時間だけが過ぎていく。
「アレの貯えた魔力だけど、このまま戦うとなると数時間は必要になる。私は良いとして、君は――」
「いや、そこまでは無理です。俺も魔力切れになりますよ。何か、あの攻撃モードを元に戻す方法とかないんですか?」
「難しいと言わざるを得ないね。何せ、こんなことになったのは初めてだから……」
「安全装置くらい作っておきましょうよ」
メルクの力ない答えに、勇輝は肩を落としたくなる。そんな中、勇輝の背後から桜が声を掛けた。
「あの、勇輝さん。もしかしてだけど、術式を見つけられる方法があるかも……」
「桜、何か思いついたのか!?」
自信無さげな声ではあるが、少しでも勝算があるならばと桜の声に勇輝は耳を傾ける。
「前に怨霊を倒した時、村の人と怨霊の繋がりを勇輝さんは見てたんだよね? だったら、今度はあの水銀とメルクさんの繋がりを見ればいいんじゃないかな?」
「メルクさんと生きた銀の繋がり……」
勇輝はガンドで次の火球を相殺した瞬間に、肩越しにメルクへと魔眼を向ける。
メルクの纏う光は水銀と同じ青と銀。そこにわずかだが、銀とは違う白い色が混ざっているように見えた。そんな光はメルクの体から、細い糸のように空へと伸びている。
(あの時と同じ――でも、繋がりが薄いっ!)
怨霊は村人の意識を利用して己の存在を維持していた。対して、生きた銀は己の保有する魔力で活動をしており、メルクとの繋がりを拒絶しているに近い。それが光の強さや細さに影響しているのだろう。
そして、この光を斬るのではなく、目的はその終点。生きた銀のどこに繋がっているかが問題だ。
(くっ、火球とガンドがぶつかった衝撃で、その先が見辛いな。観察する時間が短すぎる)
生きた銀の迎撃による火球は、確実に狙いをつける為なのか煙が晴れてから放たれる。そのおかげで勇輝のガンドの装填も間に合っているのだが、逆に言えば魔眼で生きた銀を観察する時間が極端に少ないとも言えた。
加えて、勇輝の魔力はポーションで回復しているとはいえ、放出する分が上回る。十数分後には魔力切れで倒れかねない。何とかして短期決戦に持ち込むためにも、生きた銀の術式の核となる部分を一秒でも早く見つけ出さなければならない。
「メルクさん。一応、聞いておきますけど、アレは破壊しても構いませんか?」
「あぁ、気にしないでくれ。こんなことになってしまうのならば、再調整よりも一から作り直した方が早いからね。尤も、私が無事に生きてこの街を出られるような立場のままでいられれば、の話だけど」
「そこら辺は、ギルドか騎士団の偉い人に確認してください。混乱を引き起こしただけで被害が少なければ、まだ何とかなると思いますから」
勇輝は再び襲い来る火球をガンドで弾き飛ばしつつ、歯を食いしばる。
そんな中、どこからか迂回して来たのかフランが背後から合流した。
「もう、何が何だか全然わからないですけど、大変なことだけはわかりました。私にできることはありますか?」
「少しだけでいいから、あの火球を食い止めて欲しい。そうすれば俺の魔眼で、アレの弱点を見つけられるかもしれないから。あと桜は万が一為の防壁の展開を準備してて」
すぐに勇輝はフランへと協力を要請する。さらに魔力をほとんど消費していない桜へと指示を出すと、彼女は力強く頷いた。
「任せて。みんなは私の岩の槍で守って見せるから」
「あぁ、頼りにしてるよ! フラン、十秒後に交代で!」
フランが杖を構えて詠唱を始めたのを確認し、勇輝は生きた銀と建物の位置を考える。火球が爆発して視界に影響を及ぼさない場所までの移動を導き出したと同時に、フランと場所を入れ替わる。
本格的に生きた銀の捕獲作戦から破壊作戦へと切り替わった瞬間だった。
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