完全回収Ⅵ
「ド、ドラゴンブレスだって!? まさか、ドラゴンを使役できるのかい!?」
「いいえ、少し違います。その力が宿った宝石を身に着けている仲間がいるだけです。ほら、あそこに!」
ソフィが掌でメインストリートの反対側を示す。そこには息を切らせ、肩を揺らすフランがいた。
「い、いったい何なんですか!? 大勢の人が押し寄せて来たと思ったら、爆発音が聞こえてきますし、ソフィちゃんに呼び出されるしで、わけがわかりませんよ!」
大声で抗議の声を上げるフランに、ソフィは笑顔で手を振った。
「お待ちしていましたよ、フランさん。上に浮いてる火球の中に、魔力を求めている斧がいるんです。放っておくと暴れだすので、フランさんの魔法を当て続けて欲しいのです」
「うえっ!? 私、魔力を使い過ぎるとアレになっちゃうんですけど!?」
真祖の吸血鬼で普段は無害なフランだが、魔力が足りないと血液を通して魔力を摂取しようとする衝動に襲われてしまう。今はドラゴンの吐く炎の魔力を溜め込んだルビーを身に着けているので、その心配はない。
「大丈夫です。そのルビーに宿った魔力は、そう簡単には尽きません。何せ水精霊の魔力を極限まで削りきるような場所で長年魔力を溜め込んだんですから」
「そ、そうですか? じゃあ、いつもの連射モードで行けばいいですか?」
「とりあえず、それで! 呪文は『燃え上がり、爆ぜよ』ではなく、延焼重視の『 焼き尽くせ』でお願いします」
ソフィとの疑似妖精を用いた通信が終わったのか、フランが杖を取り出す。その杖先に魔力が宿ったかと思うと紅蓮に輝き出した。その光を魔眼で視認した勇輝は、フランもまたマリーたちと同じく、魔法の扱いに慣れ、レベルを上げてきていることがわかる。
それもそのはず。フランの魔法は少々特殊で、一度呪文を唱えると、それを連続で射出するという形をとる。言い換えれば、呪文を唱えることなく魔力制御の鍛錬を超高速で繰り返すことができる。発動した魔法のフィードバックを素早く行い、その結果を確かめる行為が誰よりも容易ということを考えると、火球の扱いの上達度はアイリスすらも上回るだろう。
「うおっ!? でかっ!?」
マリーの燃やしていた斧に、フランの火球が次々と襲い掛かる。一発着弾して、それが掻き消える前に次弾が届く。やがて、斧を取り巻く炎が収縮よりも膨張に傾き始めた。心臓の鼓動のように小さくなっては大きくなるを繰り返し、その半径を伸ばしていく。
「よし! このまま行けば、何とかなりそうな気がしてきたぜ!」
マリーが拳を握りしめる。その横をメルクが進み出て、右手を掲げた。
「いえ、流石にやりすぎです」
「な、何をっ!?」
メルクの手の動きに合わせて、水路の水が竜巻のように斧を包み込む。フランの火球が遮られ、蒸気が噴き出た。
その行動に驚いて真っ先に声を上げたのは桜だった。フランも何が起こったかは理解せずとも驚きを隠し切れていないようで、火球の連射を止めてしまった。
「な、何故、魔法を遮ったのですか!? あれならば、魔力の吸収もかなりの量に――」
「彼の言ったように、あれは水銀だ。流石に火力が高すぎると、水銀自体も蒸発する。そうなれば、魔力の吸収どころじゃない。防衛術式が発動して、暴走しかねない」
ソフィの講義にメルクが早口で説明する。彼もマリーだけならば大丈夫だとは思っていたのだろう。しかし、フランというイレギュラーがその予想を悪い意味で裏切ってしまった。
メルクの放った防御術式という言葉に、桜が嫌な予感を感じ取ったのか一歩後ずさる。
「その防衛機構って……?」
「……今まで貯えた魔力を、喰らった魔法を再現して、迎撃するというものだ」
すぐに勇輝はメルクの言葉を聞いて走り出す。もしも、生きた銀が迎撃をするというならば、真っ先に狙うのは最後に攻撃を放っていたフランだ。いくら真祖の吸血鬼という強靭な体を持とうとも、魔法攻撃を喰らい続けて平気でいられるはずがない。
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