完全回収Ⅲ
「魔力の収集が目的だと言ったね。多分、ダンジョン内で吸収した魔力が原因だから、その量を上回るだけの魔力を流し込めば魔物化は解除される可能性がある」
「ちょっと、待ってくれ。あの水銀を見失ったのはいつからだ?」
「二週間前かな? 自動で収集する量には限界があるから、こちらから魔力を流し込めば無制限に入れられる。恐らく、十日分くらいの自動収集量が必要と見るね」
メルクは腕を組んで唸る。どのような計算式が彼の頭の中で立式されているかは、勇輝たちの知るところではないが、解決する方法の目途はついた。後は実行に移すのみだが、問題が一つある。
「一日の自動収集量って、どれくらいの魔力量ですか?」
「一般成人の百人分。つまり、最低でも千人分ってところかな?」
「千っ!?」
桜の表情が驚愕の色に染まる。ここにいるメンバーだけでは到底足りる魔力量ではない。仮に魔力量が平均よりも上だったとしても、到底覆せない量だ。
「無理な話ではないと思うよ。あの水路の水には自然界の魔力が溶け込んでいる。人間の魔力と混ざることで、数倍から十数倍のエネルギーとして蓄積できる。一時的だけど、それでアレの術式に割り込めれば問題は無いはずさ」
「それを言うなら、まず自分がやったらどうなんだ?」
マリーが批難の声を投げかける。しかし、メルクは苦笑いをするのみだ。
「私の命令を聞かせるなら、最後の仕上げ部分じゃないと意味がない。私が魔力を出し尽くしたら、アレはまた勝手に動き出してしまうからね」
その説明にマリーは舌打ちすると、斧の方へと振り返った。
「あの氷越しでも魔力を流し込めば問題は無いんだな?」
「そうだね。何だったら、君たちが発動した氷や水、炎に触れているだけでも問題は無い。魔法を消費する前に吸収しきるはずさ――普通はね」
メルクの視線が勇輝へと向けられる。初めて、彼の表情が険しいものに変わった。
その理由をすぐに勇輝は理解した。
どのような魔法であっても着弾した瞬間に魔力を吸収してしまう。マリーの火球による爆発がそこまで効いていないのもそれが原因だろう。アイリスやソフィーの氷柱が壊れていないのは、常に魔力を注ぎ込んでいるからにすぎない。
しかし、勇輝のガンドは魔力の塊そのものだ。収集する能力をもった水銀にとって、これほどの御馳走は無い。それでも、水銀は勇輝の魔力を吸収するどころか勢いを殺すことなく弾け飛んでしまっていた。
「まったく、おかしな威力をしているね。結構、一度に吸収できる量は多いはずなんだけど、君のは少し規格外のようだ。時間があれば、研究させてほしいところだね」
「悪いけど、そんな暇はないんだ。そういう話は、アレを止めてからにしてくれ」
「おっと、それは失礼。気が急いてしまうのが私の悪いところだ。じゃあ、申し訳ないけど、アレが満足するまで魔力という名の魔法を食わせてやってくれないか?」
メルクが告げると同時に氷柱から嫌な音が鳴り響く。見れば斧を中心に大きな亀裂が氷柱全体へと走り始めていた。
次々と氷が剥がれ落ち、水路の中へと落ちていく。
「アイリス、ソフィ。大丈夫か?」
「思ったより、魔力が消費された。多分、今の説明通り、魔力が吸い取られて、氷が維持できない」
アイリスが杖を握る手を震わせながら答える。
「恐らく、この時間を耐えて居られたのは、氷にするために魔力を事前に籠めていた量が多かったからでしょう。でも、アレを水で包んで凍らせる工程を踏んでいたら、どれだけ魔力を籠めても氷にはならなかったでしょうね」
ソフィは腹立たし気に杖を降ろし、アイリスへと呼びかける。
「私たちの出番はこれまでのようです。魔力の放出のし過ぎで倒れる前に、魔法の解除を――」
しかし、その言葉にアイリスは首を横に振った。
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