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生きた銀Ⅷ

 斧という形を捨て、飛び散った破片一つ一つを弾丸として攻撃してきたことに勇輝は血の気が引いた。


(アイリスたちが水を操るみたいに襲われたらマズいな)


 水を操ることの恐ろしさ。それは液体の特性を生かし、自由自在に形を変えて相手に纏わりつかせることで行動を制限できる。特に生物相手には、顔を覆い尽くすというだけで、窒息死という結末をもたらすことも可能だ。

 水どころか、金属に顔を包まれて窒息など想像もしたくない。

 幸いにも、屋根にめり込んだ金属は姿を変えて集まり、再び斧の形を象り始める。問題はここでは勇輝と斧が一対一の状況で、マリーたちの援護を受けられない点にあった。


「また、鬼ごっこするのは勘弁だ!」


 勇輝はメインストリート側へ走ると、意を決して屋根から飛び降りた。

 落下恐怖症の勇輝だが、身体強化を施していれば地上十数メートルの高さから落ちても無傷で着地できることは経験済みだ。その自信もあって、何とか躊躇せずに行動できた。


「あっぶな!?」


 肩越しに振り返ると、勇輝がいた場所を斧が勢いよく通り過ぎていく。遅れて、風の唸る音が勇輝の耳に届いた。

 視線を地面に戻し、両足と片手を使って着地する。わずかに痺れが下半身を襲うが、動けないほどではなかった。すぐに勇輝はマリーたちがいた路地に向かって走り出す。

 マリーと桜がそこから顔を覗かせていて、ほっとしたのも束の間、二人が杖を勇輝の真上へと向けた。即座に勇輝も振り返って右手を上に振り上げる。


「うおっ!?」


 マリーの火球、桜の石礫、勇輝のガンド。三つの魔法攻撃が空中で交錯する。

 勇輝の頭上、約三メートル地点で斧が爆散。水路や建物の壁に銀色の液体がべっとりとくっついた。その様子を見て、勇輝は銀色の斧があまりにも液体の挙動をしすぎていて、気味が悪くなった。

 ズルズルと壁を這い、また一つに集まろうとしている姿に勇輝は一歩後ずさる。


「こいつら、本当に金属でできた液体みたいだな。まるで――」


 そこまで呟いて、勇輝は口を噤む。


(まるで? いや、むしろ、それその物では?)


 推測が当たっているのならば、今まで考えていた以上に危険な代物だ。一刻も早く対処しなければ、時間差で王都が危機に陥る。


「おい、俺のガンドはあいつに効いてると思うか?」

『恐らく効いていないだろうな。ガンドの威力が弱いとか、そういう問題じゃない。存在強度の違いってところか。前に海に向かってガンドを撃った時、進む距離が減衰しただろう? アレの何十倍もの抵抗がかかってるのかもしれないな』

「流石、一度斬っただけで俺の聞きたかったことを答えられるとはね」

『はっ、俺を褒めても何もないぜ。それより、さっきの感じ。何か、あの斧の正体にでも気付いたか? どうせヤバい代物っぽいんだ。そこまで驚くことないだろ』


 心刀の問いかけに、勇輝は顔を引き攣らせる。


「ヤバい代物? ふざけるな。アレの対処を少しでも間違えたら、大変なことになる。最悪、グールが紛れ込んだ時と同じくらいの大事件に発展するぞ」

『……マジか』


 心刀の声が低くなる。勇輝の言葉に、かなりの危険性があると察したらしい。

 勇輝は魔眼で散らばった斧の断片を観察しながら、それらが集まろうとする方向を推測する。そこにガンドを放つポーズこそするものの、勇輝は迂闊に攻撃をするわけにはいかないと考えていた。


「最初から気付くべきだったんだ。こんなにわかりやすい特徴を持っているのに、ここが魔法が存在する世界だからって、最初から排除していた」

『そうか。お前の言いたいことが俺にもやっとわかった。確かに対処は間違えられないな。あの生きた銀とやら、俺たちが見ていた分で全てか?』

「それはわからない。でも、一つだけ言えることがある。常温で液体の金属は、『水銀』しかありえない!」

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