生きた銀Ⅵ
身体強化で建物の屋上に跳んで上がった勇輝は、こっそりと斧の様子を観察する。
(あの冒険者たち、結構耐えてるな。盾を持ってる人がいるのが大きいんだろうけど、それでもあの速度を防ぐのは相当な力量がないと無理だよな……)
背後の二人が魔法で攻撃し、前衛の盾持ちが襲ってきた斧を弾き飛ばしている。
本来は後衛の内の一人は、元々前衛だったのだろう。腰に差した剣があるが、まだ怪我が治りきっていないようで、杖を両手で握って無理矢理照準を付けているようだった。恐らく、自分がやられた相手に復讐しようという気力だけで構えているのだろう。もう一人の後衛に比べて、その杖から放たれる魔法の頻度は低かった。
しかし、盾持ちも既に限界が近いのか、肩で息をしている。すぐにとまではいかないが、早く助けに入った方が良いと勇輝は判断した。
「マリー、俺が最初にやる。俺に向かってきたところを狙うか。余裕があれば、俺が攻撃した直後の修復している瞬間を狙って見てくれ」
下の路地に向かって声を投げかけると、マリーは手を大きく開けて、路地からメインストリートへと向かった。探偵のように背を壁に預け、顔を覗かせて斧の位置を確認している。
『覚悟はできたか?』
「いつも通りの楽観的思考で、考えるのを辞めただけだ。どうにもならなくなったら、お前をぶん投げるからよろしく」
『仕方ないな。お前に死なれたら困る。今回は相手が相手だからな。出来る限り転移で助けてやるよ』
「何回まで使える?」
『二回か三回だろうな。上手くいけば四回できるかもしれない』
勇輝の心刀の能力は「鞘に転移で戻る」こと。元の世界に戻りたいという勇輝の気持ちが、能力となって現れたというのだが、使える状況が限定される。
ただし、この能力には「鞘を持っている人間が心刀の位置に納刀状態になるよう転移する」という形で発動もできる。つまり、心刀を全力で遠くに投げて一瞬で、そこへ転移することで攻撃を躱すという使い方ができるというわけだ。
もちろん、心刀に溜め込んだ魔力を消費するので、回数制限付き。それでも勇輝からすれば、チート級の回避手段が使えるので嬉しい限りだ。
「しっかり、剣術の基礎を固めたら、その能力を生かした技とかも開発したいな」
『はっ、十年早いな。寝言は寝て言いな』
小馬鹿にした心刀の声が脳内に響く中、勇輝は心刀を抜いて左手に逆手で持つ。右手には既に魔力を集中させていた。だが、それを全力で撃つわけにはいかない。
もしも外したり、王都を取り囲む結界に穴を開けてしまったら、水路を破壊するのと同じくらいの大事になる。先程助ける時に放った一撃も己の間隔で、必要最小限の威力に調節していた。
「まったく、変なところで器用になっちまった」
指先に収束させた魔力で学園の結界を破壊してしまった過去を思い出しながら、勇輝は屋上から身を乗り出す。
ちょうど角度的には外しても水路の水に当たるコースに斧が浮いていた。
「……イケるっ!」
盾に跳ね返されて、斧の表面が波打っていたところに、勇輝のガンドが着弾する。その瞬間に柄とわずかな斧だった部分を残して、銀色の飛沫が飛び散った。
それを見て、やはり個体よりは液体に近い物質だと勇輝は確信する。そのまま、柄の方に注目を続け、再生する様子を捉えようと目を凝らす。
すると、あちこちから銀色の雫が流れ星にように集まり、綿あめのような球体になった後に、元の斧の形を取り戻した。
「あの状態から元に戻るのに五秒ちょっとか。ガンドの装填に間に合うかどうかだな」
魔力用の回復ポーションを飲みながら勇輝は顔をしかめた。全弾放ってからの装填時間だとぎりぎり間に合うか。では、一発ずつ放つ度に魔力を籠め直せばいいかと問われれば、それもまた違う。せっかく威力を調整した感覚が装填でリセットされてしまうので、万が一の被害が大きくなりやすい。街の安全ためには、全て撃ちきってからの装填が必要だった。
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