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生きた銀Ⅲ

 ――とりあえず、様子見か。


 そんな空気が勇輝たちの間で何となく流れ始める。しかし、物事はそう簡単に上手くいかないことを、すぐに思い知らされることになるとは思ってもみなかった。


「じゃあ、邪魔にならないように一度遠くに行くか。あの斧が動いているなら、通り過ぎるのを待ってから出ようぜ」


 マリーが表を指差し、疲れた表情見せる。

 魔力をさほど消費しているわけではないが、この寒さの中をダンジョンに行って戻って来るだけでも、それなりに体力は消耗するものだ。可能であれば、少しは休みたいという気持ちが生まれるのも当然と言える。だが、こんな騒ぎが起こっている近くで食事をとるのも、それはそれで落ち着かない。


「……どうする?」

「もう一回、外の様子を見てみましょう。マリーちゃんの言った通りの動きくらいしか、私にも思い浮かばないです」


 ソフィの鶴の一声で、勇輝たちは再度、外に出ることを試みる。

 勇輝は外へと歩を進めながら、心刀へと問いかけた。


(あいつを斬った時に、何か感じたか?)

『そうだな……。俺と似たような雰囲気があった。さっき、生きた銀と言っていたが、何かしらの意志をもっていたようにも思える。今さらな話だがな』

(逆に言うと、そこまでして意識しないとわからないような違和感ってことか?)

『あぁ、恐らく、斬ったつもりで実際は斬れていなかったんじゃないか? 事実、斬った感触が無かっただろ。俺としては密度の濃い液体を素通りした感じに近いな。まったく、俺としたことが、こんなことに気付かなかったとは……。情けない話だ』


 珍しく心刀が己の不甲斐なさを嘆く。


『アレを捕まえるとなったら、一筋縄じゃいかないな。俺で何とかしようとは思わないことだ。さっき言っていた水の魔法で閉じ込める方法が一番可能性がありそうだが、それで無理となると苦しいぞ』


 自分自身が役に立たないことを認めた上で、現状の対処法として可能性が一番高い方法を挙げる。ただ、それが無理だった場合は、本格的に打つ手なしだと、心刀も語った。


「よし。それじゃあ、さっそく優雅な空中散歩をする武器様の様子を拝んでみるか」

「待ってくれ。一応、俺が行く」


 マリーが先頭を行こうとするので、慌てて、勇輝は前へと進み出る。

 心刀の鯉口を切った状態で、空を見上げながら斧を魔眼で探す。すると、ちょうどギルドの目の前を斧が通り過ぎていくところだった。周囲の建物の高さから察するに、地上十数メートル辺りをゆっくりと歩く速度よりもなお遅く移動している。


「このまま、とりあえず放っておくでいいよな?」


 勇輝が振り返ると、全員が静かに頷いた。

 勇輝は触らぬ神に祟りなしとばかりに、上空を見上げる人々の間を縫って斧と距離を取ろうとする。肩越しに斧から視線を極力外さないようにして歩き出した矢先、魔眼の端に赤い光を捉えた。


「なっ!?」


 遅れて、爆炎の中へと斧が消える。

 勇輝たちは失念していた。状況を知らない者が街中で浮遊する武器を見て危険と判断し、攻撃を仕掛ける可能性があったことを。

 メインストリートを道行く人たちはどよめきこそすれ、悲鳴はほとんどあがらない。それは彼ら自身も少なからず、そのように行動しようという気持ちがどこかにあったからだろう。

 勇輝が攻撃が飛んできた方向を見ると、以前、教会から治療されて出て来た冒険者たちの姿が見えた。どうやら、仲間を傷つけた斧であると気付き、一矢報いようとしたのかもしれない。


「今ので襲い掛かって来るようになったら、マズイかも」

「それだけじゃない。こんな人がいる中で戦闘が始まったら、逃げ出そうとする人が倒れて怪我人がでかねない!」


 一斉に押し寄せる人の波を想像し、勇輝は一気に血の気が引くのを感じた。

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