生きた銀Ⅰ
勇輝の推測は非常に単純。
隠し階層ダンジョンの泉の湧き出ている水は、王都経由の水で、その経路を辿って外に出たのではないかということだ。
「でも、それなら氾濫が起きていないのに外に出て来れる理由にはならないですよ?」
「俺たちと同じだ。外から持ち込まれた人や物は、外に出る時には問題ない。逆に中で生み出された魔物は、外に出るには一定の条件を満たす必要がある。それこそ、『中にいる魔物の数がある数を超える』みたいな」
精霊石のはまっていた金色の斧と同様に、銀色の斧も外から持ち込まれたのならば、勇輝の提唱したダンジョンのルールには抵触しない。
斧の大きさで水の通る道を辿って来られるかは怪しいが、粉々に砕けた状態でも再生したのだから、元に戻るのは移動した後でもできるだろう。
「そんな無茶な。いったいどこの誰が、そんなことをするんだよ」
「魔物化した斧の意思ってところじゃないか? でも、無闇に人を襲わない辺りは、別の要因が関係していそうだけど」
一部、魔物でも人を積極的に襲わないものもいるが、ほとんどの場合は敵対することが多い。それを考えると、今回の斧はイレギュラー中のイレギュラーというしかない。
「まったく、物なら物らしく大人しくしていてくれよな。話すだけならまだしも、勝手に動き回るとか」
(お前の場合はどうなんだ? 転移は動き回る範囲に入るか?)
マリーの言葉に勇輝は心刀へと問いかける。すると、勇輝の脳内に金属質な声が響いた。
『武器にもいろいろいるんだよ。あと、そんなこと言ったら付喪神になった奴らはどうなるんだ? あいつらほど、動き回る奴らはいないぞ?』
(確かに。ダンジョン産の武器とかなら一人でに戦い出す能力とか持っててもおかしくなさそうだな)
心刀に意地悪な質問をした自分が愚かだったと勇輝は苦笑いする。いつも生意気なことを言われるので、たまにはやり返してやりたい気持ちで言ってみたのだが、残念ながら心刀にはお見通しだったようだ。
そんな勇輝の横でアイリスが難しい顔をしていた。いつもは笑うか、ちょっと無表情気味なアイリスだったが、いつにもまして表情が豊かだ。
「液体のように動く銀を、探している人がいたけど、もしかして、あの斧?」
アイリスの呟きに、勇輝は動きを止める。
そう言えば、街中で出会った青年とそのような会話をした記憶があった。
――液体のように姿形を変えるから、銀色で動くこと以外は参考にはならない。
「そう言えば、メルクさんだっけ? 依頼もすでに出したって言ってたよね?」
桜が言うと、全員が依頼掲示板へと視線を向ける。誰もいない掲示板には羊皮紙がいくつも張り出されている。
誰が言い出したでもなく、皆一斉に掲示板へと歩き始めた。
「……あった。『生きた銀の回収』って書いてある」
呆気なさすぎるほどに見つかった羊皮紙は、隠されることもなく堂々と張り出されていた。依頼人の名前もメルクになっている。その名を見た瞬間、勇輝の脳裏に金髪のイケメンの顔が過ぎった。
「じゃあ、あんだけ堂々と出て来たんだから、本人が捕まえられるんじゃないか? 一応、飼い主的な立場なんだし」
「それができないから依頼を出したのか。それとも、どこにいるかわからないから依頼を出したのか。どっちなんでしょうね。何かその人と会話をしたみたいですけど、他に何か言ってました?」
「特に何も言って――いや、場所によっては魔物化するってはっきり言ってたし、何だったら生死問わずで捕まえてほしいとも言ってたな」
「でも、それ以上の情報はないんですよね? まぁ、魔物化した物体がどう活動するかわかるはずがないですし、情報が少ないのも仕方ないですね」
ソフィも腕を組んで唸る。
どうしたものかと、全員が思案するが、なかなかいい案は出てこない。
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