解放された者Ⅴ
受付での手続きを終えて、レストランで食事でもしながら、この後のことを決めようかと話していると、何やらギルドの外が騒がしくなってきた。
勇輝たちが出入口の方へと視線を向けると、慌てた様子で冒険者が何人か入って来る。
「おい! 大変だ! また、街の中に変なやつが入り込んでるぞ!」
また、という言葉に勇輝と桜は顔を見合わせる。
聖夜のダンジョンから持ち出した魔道具が、魔物の発生する装置として起動したのは記憶に新しい。再び、魔物が現れてしまったのかと、存在を確認するために二人は先陣を切ってギルドの外へ向かって駆け出した。
「お、おい、ちょっと待てって!」
後ろでマリーが慌てて声を掛けるが、勇輝たちはそれを気にせずに外へ出ると、周囲の人の視線の集まる場所を探す。
すると、多くの人が上を見上げていた。中には指を差している人もいる。
「何だ……あれ」
最初に襲ってきた感情は驚きでも恐怖でもなく、戸惑いだった。
それもそのはず。魔物が入り込んだという先入観が、「手足」や「頭」のある存在を勝手に脳内に浮かび上がらせていた。実際に空中にいたのは、手も無ければ足もない。それどころか頭も無ければ胴すらなく、生き物ですらなかった。
「あれって、さっきのダンジョンで見た斧!?」
桜の言葉に勇輝は顔をしかめた。
屋根の高さには粉々に砕け散ったはずの銀色の斧が浮遊している。しかも、水精霊など斧を持つ者が誰もいないにもかかわらず、だ。
「銀色の方は刀で切り裂いた後に再生した。やっぱり、ただの斧じゃなかったのか」
「でも、金色の斧の方に精霊石が嵌ってたんだよね? だったら、あの斧はいったい……!?」
勇輝と桜が困惑して空を見上げていると、マリーたちもギルドの中から追いついてくる。
そして、勇輝たちと同じような行動をした後に、空の斧を見て同様の反応をした。
「おいおい、何でさっきの斧が浮いてんだよ……」
「魔物化した武器が、中から出て来た? でも、あれは勇輝が倒した、はず」
流石のアイリスも、再生する魔物化した武器がダンジョンから抜け出してくるのは想像していなかったようで、目を輝かせるよりも戸惑いが先に表情へと現れていた。
「聖夜のダンジョンの時は、魔物を発生させる魔道具がダンジョンの外に、人の手で運び出されてた。でも、今回は、外に運び出した人はいない……はず」
「俺たちの中の誰かが、いつの間にか運び出したとか?」
勇輝は全員のことを見回すが、自身でその意見を否定する。
斧を倒した直後、勇輝は泉の中を覗き込んで魔眼で確認しようとした。そこから、ダンジョンを出るまで斧が纏わりついたり、何か魔道具や武器を拾った記憶はない。そもそも、そんな物を仲間が持っていれば、すぐに気付いていたはずだ。
「元々、ダンジョンを抜け出すことができたのに、していなかったのでは?」
ソフィの言葉に勇輝は、まさか、と否定したくなるが、否定する材料が見当たらない。ダンジョンに普段いる魔物ですら、氾濫が起こると外に湧き出て来る。中には、氾濫が起こっていなくても抜け出て来る魔物が存在してもおかしくはない。
「いや、そうだとしても、粉々に吹き飛んだ斧が元に戻るのはおかしいって」
マリーが空飛ぶ斧を指差しながらアピールするが、ソフィは冷静に首を横に振る。
「再生する物体の魔物がいてもおかしくないです。マリーちゃんは、再生するゴーレムを見たことがあるでしょう?」
「うっ、そういえば確かにあるな……。じゃあ、なんだ。後は、アレがダンジョンから抜け出た理由さえ、はっきりすれば問題ないってことか」
「うーん、理由はどうあれ、存在している時点で問題ありな気がしますけど。話がややこしくなるから、そういうことにしておきましょう」
ソフィは勇輝へ向き直ると、その瞳と斧とを交互に見て口を開いた。
「勇輝さん。あなたは魔眼で物体を様々な色で認識して、それが物体の性質と対応しているのではないかと推測していたはずです。今の斧の色はわかりますか?」
「……銀色と水色だ。銀は金属系の色で、水色は水精霊の魔力か何かを蓄えていたからだと思ってたんだけどな」
「もしかすると、その水の魔力が再生の元になっている可能性もあります。サファイアでできたゴーレムが、スムーズに動けるように水の魔力が含まれている理由と同じで」
つまり、ソフィの予想は、水の魔力がなくなるまで斧を何度も破壊すれば、動かなくなるというものだった。
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