解放された者Ⅳ
王都までの道程では、特に魔物に襲われることはなく無事に街の中へと入ることができた。街はまだ祭りの活気に満ち溢れており、メインストリートは人であふれ返っている。
そんな人混みを避けながらギルドへと辿り着くと、今までの人の多さが嘘だったかのように静まり返っていた。ただ、特に事件が起きたわけではないようで――むしろ、事件がないからこそ――冒険者も依頼より祭りを楽しんでいることが窺えた。
ギルド職員たちも、普段より落ち着いて過ごせているせいか、表情が穏やかだった。
「なるほど、水精霊が精霊石ごと武器に……。しかも、それがダンジョン内で魔物化していたとは。盲点というよりは、天文学的にありえない可能性を引き当ててしまっていたという方が正しいようですね」
受付嬢のコルンが難しい顔で唸る。
水精霊が入った精霊石を見つけたこと。それを武器に嵌めても水精霊が気付かずにいたこと。ダンジョン内で武器が泉の中に落ちたこと。武器がダンジョン内で魔剣ではなく、魔物化してしまったこと。それぞれが、生きている内に巡り合えるかどうかであったり、そんなことがあり得るのかと驚かざるを得ない状況であったりしたことを考えると、コルンの言う通り、凄まじく運が悪かったということになる。
「それで、その水精霊が使っていたとされる二つの斧は、破壊したということですね? 精霊石が嵌っていたという」
「はい。金と銀の斧の二つを」
勇輝が答えると、コルンは眼鏡にかかった銀色の髪をかき上げながら、水晶玉へと手をかざした。
「隠し階層ダンジョンでの武器紛失届は――――出ています。しかし、おかしいですね。本当に破壊したのは金と銀の二つでしたか?」
「はい。金色は刃の部分が抉れて、破片が砕け散っていましたし、銀色の方に至っては液体みたく飛び散ってましたよ」
「そうですか、おかしいですね。金の斧については紛失したので、見つかった際には連絡が欲しいという届け出があります。しかし、銀の斧については、過去一年間を遡っても出てこないようです」
金色に輝いていた斧の所有者はいる一方で、銀色の完全に砕け散った斧の所有者はいない。
当然、銀でできているならば、それなりに価値があるはずで無くして平気な者はいないはずだ。武器としてではなく、売るだけでも価値がある。
「その、純粋に興味があるんですけど、金の斧って、武器として使えるんですか?」
「いえ、どちらかというと杖に近い用途のようです。土属性魔法特化かつ木の魔物に対する特攻能力を狙った物だとか。所有者曰く、『魔剣のようにすれば強度も上がるか』と思ったと」
コルンは水晶玉をしまって、小さくため息をついた。
「ずっとダンジョンの中に籠りながら、一人でその完成を待っていたようですが、仮に魔剣ならぬ魔斧となっても、そこまで切れ味の良いものにはならなかったでしょう。精々、取り回しの悪い土属性しか使えない杖扱いです」
「あはは、そうですよね。あの大きさの金を振り回すのは、少し大変ってレベルじゃないですし」
桜が苦笑いしながら頷く。その傍らで、勇輝は眉間に皺を寄せていた。
あまりにも険しい顔をしていたせいか、コルンが心配そうに身を乗り出す。
「あの、どうかされましたか?」
「いえ、そういえば、銀色の斧の方なんですけど。俺の刀で一度斬り裂いたはずなんです。それなのに、一度、水精霊の手の中に戻った時に元の形に戻っていた。それが少し気になって」
魔物化した武器は、自己再生能力を持つ可能性があるのか。もし、そうであれば、粉々に砕け散ったとしても、再び魔物としてダンジョン内で復活しているかもしれない。
そんな心配が勇輝の脳裏に過ぎった。しかし、コルンは即座に首を横に振る。
「そのような事例は聞いたことがありません。魔物化した武器という例はありますが、あくまで空中を浮遊して襲い掛かったり、魔法を使ってきたりする程度です」
「そう、ですか……」
勇輝は自分の考えすぎかと顔を頷かせるが、どうも気にかかって仕方がなかった。
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