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水の女神Ⅲ

『待って。こちらは、これ以上の戦いを望みません』

「急にどうした? 攻撃をしてきたのは、そっちからだろ。自分が不利になったから降参するって、都合が良すぎないか?」


 マリーが不機嫌さを隠さずに告げると、水精霊は両手を上げて大きく頷く。


『えぇ、それはわかっています。でも、仕方ないじゃないですか。精霊石の中でゆっくり休んでいたら、勝手に武器に組み込まれた挙句、ダンジョンの中で置いていかれたんです。そんなことをやった人間に少しくらい仕返ししてもいいでしょう?』

「少しくらいって、それでみんな大怪我して死にかけていたんですよ? 自分自身が同じ目に遭っても――――」


 桜が水精霊を問い詰めようとするが、ソフィがその前に割って入る。


「精霊種とは言葉を交わすことができても、考え方の基準は人と違います。それに、死にかけたというのならば、彼女も同じです。武器に組み込まれたということは、自分の存在を維持するための魔力を根こそぎ使われていた可能性があるということ。文字通り、死にかけていたのは彼女も一緒のはずです」


 水妖精からすれば人から殺されかけた、という認識で、同じ人という種族にやり返しただけのこと。それ故に、「痛み分け」、「喧嘩両成敗」の状態であると勇輝は認識した。

 ソフィの言葉に水妖精は何も返さない。ただ、それは的を射ていたようで、かすかに顔を縦に振った。


「じゃあ、ここから出してあげたら、問題なし? 人に嫌なことされて、仕返しするなら、助けられたら、助けてくれる。違う?」

『あなたたちが、私をここから出せれば、ですね。でも難しいでしょう。何せ、武器にしっかりと埋め込んでくれたせいで取り外せないですし、ダンジョンの中に放置されたせいで、半分魔物化しちゃってますし……』


 魔物化という不穏な言葉に勇輝の表情が強張る。そんな中、マリーは面倒そうに頭を掻いた。


「あー、時々起こるんだよな。そういうこと」

「あるのかよ……」

「オーウェンの使ってる魔法剣があるだろ? 代々、家で受け継いでるやつ。あれの劣化版を作る方法があるんだ。ダンジョンみたいな魔力が満ちている空間に長時間晒してると、武器に魔力が通りやすくなる。で、それを失敗すると、剣自体が魔物化して襲って来るんだってさ」


 迷惑な話だ、とマリーは肩を竦める。

 やけに実感が籠った言い方をすることから、過去に身近なところで似たような事件を経験したことがあるのかもしれない。


「でも、マリー。もし、ダンジョンの中で死んじゃったり、今みたいに水の中に落としちゃったりしたら、全部魔物化することにならない?」

「ダンジョンの中に、何でもかんでも残らないのが関係してるんだってさ。ゴブリンとかの死体がいつの間にか消えるのと一緒でさ。人が見ていないとダンジョンが吸収するらしいんだ。だから、魔法剣を作る時には誰かが必ず見張ったり、持っていたりして消えないようにしているんだって」

「ふーん。じゃあ、その魔物化した剣って、倒すにはどうすればいいの?」

「簡単だよ。折っちまえばいいんだ。そうすれば、魔力が抜けてただの剣に戻る」

「それ、簡単そうに言ってるけど、難しくない?」


 ただでさえ金属でできているものを壊すとなると、かなり強い衝撃を与えるか。強烈な熱で溶かすしかない。


「ちょっと、待ってくれ。今、精霊石が嵌った武器が魔物化してるんだろ? それ、普通の魔物化した武器よりやばくないか?」


 ダンジョン内の魔力と精霊石自身が持つ魔力。供給源が二つある状態だと考えれば、通常の物よりも危険なことが窺える。

 恐る恐る勇輝たちは、水精霊の方へと視線を戻す。彼女の顔は至って平静だが、何故かそれが不気味に思えて仕方がなかった。


『今は、私の力で抑え込んでますけど、いずれは私を振り切って暴れ回るでしょうね。それで外に出られるならよし、出られないならそれはそれでって感じです』

「ちょっと!? それなら、精霊石から抜け出れば問題ないだろ?」

『無理ですよ。精霊石に入って力を蓄えていたのに、魔物化した武器と魔力の奪い合いで疲弊してるんです。辛うじて、人を襲う時だけ武器が大人しくなるから楽だったんですけど、それだけでは回復するには時間がありませんでしたから』


 そう告げた水精霊の手に、金色の斧と銀色の斧が空中を飛んで舞い戻る。


『――なので、私が生きる為にも、大人しく襲われてくれませんか?』

「そんな無茶な要求通るわけ――」


 マリーが激昂しようとした矢先、不意に動きが止まった。桜やアイリスが何事かと思って振り返ると、マリーはポーチの中を漁り出す。

 やがて、その中から水色の石を取り出して、水精霊に突きつけた。


「おい、そっちの精霊石を捨てて、こっちに移動しろよ。そうすれば、ダンジョンの外にも連れて行ってやれるし、武器と魔力の奪い合いをしなくても済むぞ」

『それは……精霊石、ですか? 何であなたがそんな物を……!?』


 両手を下げて、前のめりになった水精霊。数秒前まで戦闘する雰囲気だったが、一瞬でそれが吹き飛んでしまった。

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