水の女神Ⅱ
『あなたは正直者です。この二つの斧も与えましょう』
二度、同じ言葉を紡ぎ出す水精霊から初めて殺気を感じ取った。
釣っていた糸が切れるようにナイフが落ちる。音を立てて水面に波紋を作った瞬間、水精霊が両手を振り被った。
「――遅いっ!」
首の両側へと振り下ろされる金と銀の閃光。しかし、勇輝は心刀を抜くと同時に右前方に踏み出して、その軌道から既に外れていた。
体の側面に構えた心刀の刃に銀色の斧が触れる。そのまま刃によって軌道を逸らされ、振り切ったところに勇輝の攻撃が放たれる――はずだった。
「なっ!?」
刃を滑り落ちるはずだった銀色の斧に、心刀がスルリと喰いこむ。まるで熱されたチョコレートのように抵抗なく入り込んだそれに、勇輝は体を反転させてバックステップで距離を取った。
中段霞の構えで警戒する勇輝だが、水精霊に桜たちの魔法が殺到する。
桜の石礫魔法で金色の斧は手から弾き飛ばされて水の中へと消え、火球の爆発が水精霊の形を失わせる。上半身に大きく穴が開き、ギリギリで残った部分が後ろへ仰け反ったままぶら下がった。
「……呆気ないな」
「気を付けてください。水精霊は自身の体を水で構成しているので、すぐに復活します。保有する魔力の大半を使わせない限り、倒すことは不可能です」
マリーの呟きが響くが、すぐにソフィが忠告する。
事実、その通りに水精霊は姿を再生させた。透明な水が傷口を埋め、即座に色がつく。千切れた長い髪はいつの間にか長さを揃え、金色の髪へと戻っていた。
「精霊種は強大な力を持つって聞いたけど、アイリス、ソフィ。あいつの水は防げるな?」
「魔力による、水の主導権の奪い合い。それをしている間に魔法を叩きこみ続ければ、魔力が尽きるのはあっちが先。何だったら、桜や勇輝が泉ごと破壊すれば、大ダメージ」
水を自在に操るという能力は厄介極まりない。特に人間ならば首から上を水で覆うだけで容易く死に至る。
その為、水精霊に攻撃を仕掛けるなど本来ならば自殺行為。だが、それを正面から殴り合うことができる存在がいる。
「私ならば、同量の魔力量はありますから、皆さんは安心してください。元水精霊として、半分ほどの水は掌握していますので」
ソフィが杖を水精霊に向けたまま微笑んだ。
同じ魔力量と能力を持っているならば、単純に仲間の数が多い方が有利に決まっている。ソフィが水精霊の行動を阻害している間に、勇輝たちが魔法を撃ち込めばあっという間に魔力を消費してしまう。そうなれば、後はソフィが水精霊を捕縛してしまえばいい。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




