隠し階層ダンジョンⅥ
勇輝の手持ちは煙玉や採取用ナイフなど小型のものが多い。ただ、煙玉は周囲が見えなくなる可能性があるし、ナイフなどの金属は斧以外の武器を与えることになる可能性もある。
相手が仮に敵対する存在であったとしても、渡して惜しくない物。それが必要だったが、ダンジョンに向かう時に不要な物を持ち込む者などいるはずがない。そんな中、アイリスが屈んで何かを拾い上げた。
「別に、これでいい」
アイリスが持っていたのは、落ちていた石だった。大きさも煙玉と同じくらいの大きさで、投げるにもちょうどいい大きさだ。
果たしてそれで泉に潜む女神とやらが出てくるかはわからない。だが、勇輝はアイリスへと近付くと、その石をそっと握って持ち上げた。
「俺がやる。みんなは、何かあった時の為に準備しておいてくれ」
「勇輝さん。あなたがそれをやる必要は――――」
「この中で近接武器を持っているのは俺だけだ。斧が二本襲い掛かって来るってわかってるんだから、そこは俺が出るのが当然だろ?」
勇輝は心刀を軽く持ち上げて、その存在をアピールする。
「だけど、どんな時でも完璧に防ぐって自信はない。だから、一本はみんなの魔法で吹き飛ばすくらいの気持ちで待っててほしい」
「大丈夫なんだな?」
「結構、鍛錬は積んでるつもりだからな。最悪、一人で挑んだとしても最初の一撃くらいは何とかして見せるさ」
勇輝は負傷した冒険者たちの傷口を思い出す。
首から肩にかけての両側を抉るような二つの斬撃。当たり所が悪ければ死んでいてもおかしくない。むしろ、全員が奇跡的に当たり所が良かったと表現する方が適切かもしれない。
『おい、予習は必要か?』
(いや、いらない。袈裟斬りと逆袈裟斬りが同時に――しかも、場合によっては踏み込みなしで襲って来るだけの攻撃だ。十分、反応できる)
勇輝は心刀の提案を即座に却下する。
中堅クラスの冒険者が避けきれない一撃にしては、傷口が浅すぎる。それは油断して受けた攻撃だったが、そこまで攻撃自体の威力は低かったというのが勇輝の予想だった。
(恐らく、金の斧と銀の斧の昔話を思い出して受け取ろうとしたところをやられたんだろうな。武器を持っていようといまいと、神が存在する世界で女神から物を貰うのならば、両手で受け取ろうとするだろうし、人によっては頭を下げたり跪いてもらう人もいたかもしれないからな)
勇輝は石をゆっくりと下から放り投げた。放物線を描いて飛んだそれは、物理法則に従って泉の中へと音を立てて沈んでいく。
気泡が水面で弾け、次第に小さくなっていく。
「でない、ね。やっぱり、武器を入れなきゃ、ダメ?」
「そうすると、誰かが杖か刀を入れなきゃいけないけど……」
アイリスの反応に、桜は眉を顰める。
単純に攻撃できる人物が一人減る。それはいくら今までの被害者より有利な状況とはいえ、許せるものではないはずだ。
「……なぁ、別に武器って思える物なら何でもいいだろ? ほら、採取用ナイフだって刃物なんだからさ」
「もしかすると、武器ではなく金属に反応している可能性もありますね。四元素の土属性は流動性を失わせるのが本質ですから、水に関係する魔物ならば忌避したり、怒ったりすることもあるでしょうし」
では、と勇輝は採取用ナイフを取り出す。
肩越しに全員が頷いたのを確認して、屈んで採取用ナイフの刃先を水に浸けてみた。数秒程、その態勢で待ってみるが反応がない。替えが利くとは言え、一本しかない採取ナイフをここで放るのは気が引ける。勇輝が悩みながらもナイフを揺らしていると、急に引っ張られる感触が返って来た。
魚が喰いついたように、一気に引っ張る力が強くなる。すぐに勇輝は魔眼を開いて、何が起きているかを確認しようとするが、ナイフを奪われる方が早かった。
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