隠し階層ダンジョンⅢ
入口はただの平原の近くにある為、中が洞窟型ということに違和感を抱く。しかし、入ってしまえば見たことがあるダンジョンと相違はない。ヒカリゴケで視界が確保された、比較的広めな通路が広がっている。
「このダンジョン。初心者はあまり来ないって聞いたけど、普通に良さそうじゃん」
「甘いぜ、勇輝。通路が広ければ敵に囲まれやすいし、隠し階層ダンジョンは魔物が急に出現するから危ないんだ」
隠し階層の目玉でもある未発見のエリアの敷居。それは様々なパターンが存在しているという。謎解きで開く壁、衝撃を与えると崩れる壁、特定の魔法で消える壁、幻覚魔法であるように見せかけた壁など、その種類は千差万別だ。基本的には冒険者側から何かアクションをしないと通れないのだが、幻覚魔法のように壁自体が存在していない場所では、向こう側から魔物が通り抜けてくることもあるという。
結果、先程までいなかったはずの敵が後ろや横に出現するという恐ろしい出来事が起こるのだとか。
「その為の対策で、一番簡単なのは、これ」
アイリスが握っていた物を左右に揺らす。それはダンジョン前に何十本も打ち捨てられていた木の棒だった。
「壁に当てながら前に進めば、幻覚でできた壁かどうかを目と感触で判断できる。奇襲される可能性が、激減」
アイリスは先頭を行く勇輝に棒を一つ渡し、もう一つを自身が持った。右は勇輝、左はアイリスがチェックするという配置らしい。
「いや、アイリスは持たなくていいよ。変なところは俺の魔眼で見付けられると思うから、最悪、棒もいらないかもな」
「む、そういえば、そうだった。でも、相変わらず勇輝の魔眼は――変」
「変って言うな、変って。俺だって、どんな能力かはっきりわからなくて怖いんだからさ」
そう文句を言いながら勇輝は魔眼を開く。すると、奥に一カ所だけ壁の色が真っ赤な部分が見つかった。
「さっそく、変なところを見つけたけど、何か気を付けることは?」
「未発見エリアは魔物が限界まで出現している可能性があります。簡易版の氾濫が起こる可能性があるので、可能なら離れたところから対処する方が安全ですよ」
「それ、もし自分たちで対応できなかったら……?」
「魔物に追われながら入口に戻るか、次の階層までの道に逃げ込むか、ですね。いずれにしても他の冒険者の方に迷惑をかけることになります。それが初心者があまり来ない理由かもしれませんね。多くて二十体ほどのゴブリンに襲われるという話でしたので、それを捌ける自信があるのであれば、ソロの冒険者の方でも余裕で探索は出来るらしいですが」
一定の集団を相手取れる実力が必要。そうなると、中堅の冒険者であっても安全の為にパーティで行動することもあるだろう。だからこそ、勇輝は余計に単独行動をし始めて怪我をした冒険者たちの行動の理由がわからなかった。
「じゃあ、とりあえず開けてみるか。意外と簡単に見つかるもんだな」
「ダンジョンは地脈の魔力を吸い取って、階層を増やすらしい。多分、このダンジョンはそれが起こりやすいのかもな。ほら、行ってみようぜ」
マリーは見つかった未発見エリアが気になるのか、勇輝の背を押して進むように促す。
勇輝は周囲に魔物の存在がないことを確認して、その壁へと近付いていった。
「俺の眼には赤い光が見えてる。火の魔法に反応するのか、水の魔法で打ち消すのか。とりあえず、誰かやって見てくれるか?」
「じゃあ、私がやってみるね。どこを狙えばいい?」
「あの曲がり角に入る手前。根元が少し盛り上がっている所の壁に」
「任せて!」
桜がすぐに杖を構えて火球を放つ。見事、壁に着弾した火球だったが、不思議なことに岩の一つも欠けずに存在していた。
続けて桜が水を勢いよく杖先から放出する。ウォーターカッターのように勢いよく射出された一条の奔流。壁はそれを受けた瞬間に元々なかったかのように崩れ落ち、破片は溶けるようにして消えてしまった。
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